ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

スーパーエッシャー展

11月11日から始まった(来年1月13日まで)「スーパーエッシャー展 ある特異な版画家の軌跡」を見てきました。エッシャーは過去何度もいろんな媒体で見ているし、今更なぁ〜という気もしていたのですが、関係者にチケットをいただいたので行くか…と行ってみたところ、知らない作品も多数あって思っていた以上に楽しめました。わたしが主に知っていたのは1930年代後半以降のものだったようで、前半の初めて見るエッシャーは興味深かったです。そして版画とは、エッシャーの言うように「職人」の技であり「労働」であるということを、その進歩する技巧と弛みない研究創作を目の当たりにすることで痛感できた展覧会でした。うーん、改めてみるとやっぱりエッシャー面白い。



マウリッツ・コーネリアスエッシャー(Maurits Cornelis ESCHER, 1898-1972)は、オランダに生まれた版画家です。でも版画のみならず自らの考案した繰り返されるモティーフを立体にした作品《魚で覆われた球体》もあることを初めて知りました。気持ち悪くて大好きな《カールアップ》*1が生まれたのも、『ファーブル昆虫記』か?っていうくらい緻密な生態観察に基づいた初期作品があってこそであることが分かったこともまた収穫。
展覧会は、クロノロジカルにエッシャー版画の展開を見ていく構成。初期オランダ時代、イタリア時代、スイス滞在以降から晩年まで、となっていました。1、2章が個人的新発見の作品が多く楽しかったです。


第1章 身近なものと自画像
    
自画像や猫、鳥(挿図は《ツグミのひな》)、猫や兎などの動物や蟻などの昆虫といった身近なモチーフを描いていた時代を紹介。しかしエッシャーは初期、3枚目の挿図《小鳥に説教する聖フランチェスコ》のような、かなり宗教的な作品を手掛けていることを付記してもらいたかったなと思う。次にエッシャー展があれば、今度はこういう宗教作品が見たいなぁ。エッシャーが視覚化したということでJ.S.バッハの《平均律クラヴィーア》が一部流れていた野もまた気分よい。


第2章 旅の風景
    
イタリアの風景を中心に紹介される章。《地下聖堂での行列》はK.K.K.っぽくて不思議な雰囲気。蝋燭の明かりの広がりを蜘蛛の巣のような線で表現しているところが興味深かった。「夜のローマ」シリーズは、なんとなく昼の強い光という印象のあるローマの、神秘的な雰囲気を見せてくれたかのよう。光あってこそのイタリアだと思うんだけど、その光をなくしてなお魅力的に描くには?という苦心が伺える気がした。


第3章 平面と立体の正則分割
第4章 特異な視点、だまし絵
このへんから良く知られているエッシャー作品に。木製パズルでよくあるような組み合わせの習作から、白黒の鳥と田圃がいつの間にか溶け合うもの、上下さかさまに見ても絵として成立するものなど。
鏡をトリッキーに使ったものや、平面だけでなく立体的なだまし絵へと、その構成はますます高度になっていく。資料展示のノートは、そんなエッシャーの生真面目な研究人生を見せるかのような細かさだった。昔パリのBNでゾラ展を見たときも思ったのだけど、こういう緻密に作成された資料には、それが文学とか絵画とか関係なく、つくづく圧倒される。


会場ではニンテンドー DS Liteがガイドとして無料で貸し出されている。タッチして画面を動かして拡大して見られるのだけど、別にゲームができるわけでもないし*2、拡大率を変えられるわけでもないので、DSである必要性があまり分からない。その上音声ガイドを聞きながらDSの画面を見ている客が多く、作品そのものを見ないんだったら作品の前に突っ立ってないで!と思うことしばしば。まぁニンテンドーの狙いは、今までの顧客層よりも上の年齢層にDSを体験してもらうってことらしいんだけど、だったらちょっと展覧会の種類を誤ったかな?という印象は否めない。
若い年齢層を中心に、かなり混雑した展覧会だった。時間の調整が効く人は、空いてるであろう時間を見計らっていくのが吉。


▼参照web▼
M.C.Escher Official Website:ギャラリーも充実

*1:でんぐりでんぐりっていう和訳カワイイvしかもメインキャラとしてフューチャーされていたのもまた嬉しい。

*2:出来てもお客さん帰らなくて困るけど