ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

ルソーの見た夢、ルソーに見る夢展

10月7日から今月10日まで世田谷美術館で開催中の「ルソーの見た夢、ルソーに見る夢」展を見てきました。世田谷美術館は最寄り駅が最寄ってないので*1行くまでに面倒くさい〜と思ってしまうのだけど、行って見るとそれなりに毎回満足する美術館。今回の展覧会は、ルソー展というよりもルソーに影響を受けた日本人画家の展覧会だという覚悟を決めていったので、なかなか満足の内容でした(近代日本洋画は好きなものが少ないので)。


I章)ルソーの見た夢

素朴派(Art naïf)作家の代表とされ今なお魅力溢れるルソー(Henri ROUSSEAU, le Douanier, 1884-1910)から開始。オルセでよく見ていた作品はルソーにしては“巧い”ので、久々に下手くそなルソーを見る。下手くそなのに味があって、見ずに入られないこのルソーの魅力って、ほんと何なんだろう?グラデーションを付けて葉っぱが描けるようになってきて「あっ上達した!」とか言いながら笑って見る。実際の風景ではなく自分の作ったジオラマを見ながら描いたかのような《夕暮れの眺め、ポン・デュ・ジュール》、まず先に描きたい物を描いちゃったら周りと上手くバランスが取れなくなっちゃって、でもいいや〜って投げ出した感のある《牛のいる風景 パリ近郊の眺め、バニュー村》などに見られるおかしな遠近感は、明らかに“巧くない”んだけど、それでも“な〜んかイイ”と思わせる、この天真爛漫さ。そりゃピカソも好きだったはずだわ、と思わせる。これは単にあたしがルソーを盲目的に好きだからなだけ?
ポスターになった《熱帯風景、オレンジの森の猿たち》の猿は、変な具合に人間ぽい。このへんてこりんさは何でだろう?と思い、分かりました、この猿たち、メイクっぽいの。CATSかライオンキングかっていう感じ。持ってるオレンジはまるで立体感がなく、ただの丸。手鞠か?っていう。ルソーに限らず素朴派の画家たち皆に言えることなんだけど、描かれているもののリアリティの度合いが、モティーフによって激しく異なっていて、それが画面の中に一緒にあるってことが奇妙な鑑賞感を起こさせるのだ。


II章)素朴派たちの夢
   
続いて美術史家ウーデ(Wilhelm UHDE, 1874-1947)によってルソーのフォロワーとしての地位を与えられた画家たちが登場。(上の作品は今回の出展作ではありません。)

  • カミーユ・ボンボワ(Camille BOMBOIS, 1883-1970)
    • 個人的には横尾忠則ジョー・コールマンを思い出してしまう画家。初めて意識して見たのはマイヨール美術館の作品で、なんだこのでぶロリ系の作家は??っていう衝撃。ボテロにはないエロさででぶを描く。船で生まれ育ったので見世物的モチーフが多い。
  • アンドレ・ボーシャン(André BAUCHANT, 1873-1958)
    • 園芸師の家に生まれ、生涯花と緑に囲まれそれを絵にしてきた画家。植物は奇妙に巧いのだけど、いかんせん人物が下手すぎる。今回出ていた作品の中でも、聖アントワーヌとアダム、同じ顔してたし、同じくらいSDF風だったし。
  • ルイ・ヴィヴァン(Louis VIVIN, 1861-1936)
    • お土産のクッキー缶ですか?っていう絵を書く人。元郵便配達夫で、退職してから絵を始める。レンガ一つ一つを繊細にかつ明確に描くので、それがかえって小学生の写生大会風。あたしこういう絵、小学生の時描いてたもん。
  • セラフィーヌ・ルイ(Séraphine Louis, Séraphine de Senlis, 1864-1942)
    • シャンティイ近くの町サンリスの画家。ウーデの家で家政婦をしていた際にウーデに才能を見出された。夜蝋燭の明かりの元でのみ制作をし、その作風は具象というより抽象の手前のような、装飾的なものである。


III章)ルソーに見る夢 日本近代美術家たちとルソー (1)洋画、(2)日本画、(3)写真
    
印象主義的作風で知っていた岡鹿之助や、松本竣介ら14人の洋画家(1)と、土田麦僊や加山又造ら7人の日本画家(2)、そして植田正治ら7人の写真家たちの作品が展示されているセクション。植田正治の写真は、ルソー的というより寺山修司の映画を思い出させる。


IV章)現代のルソー像
    
このセクションはとても面白かった。横尾忠則(1936-)がこんなにルソーに捧げる作品を描いているとは、恥ずかしながら知りませんでした。横尾作品では食べられちゃってる《眠るジプシー女》は、作品横に写真パネルでオリジナルが展示してあったのだけど、上記の作品は無かったので掲載。《フットボールをする人々》が秀逸!おっさん、自分の生首だよそれ!っていう面白さ。オルセ美術館が持ってる《戦争あるいは戦争の惨禍》の手前で「あれ僕、首離れちゃってる?」って顔したおっさんがいるんだけど、そのくらい飄軽な表現の生首。
靉嘔(1931-)の版画もえらいことポップだったなー。
そしてその横にあった青木世一(1954-)のAOKIT!初めて生で見ました、彼のキットを!ずっと見てみたかったんですよー嬉しい。2004年豊田市美で開催されたとよた美術展に出品してた際の作者コメントが「世界の名画をキット化し、作り続けているブランドがある。その名は「AOKIT」。もっともこのブランドには致命的な欠陥がある。名画のキットのはずなのに、出来上がりが立体なのだ…。」っていうのを読んで画像を見て以来、気になっていたのです。元美術教師だそうで(今も?)、この人に教わった子達はきっと楽しい美術体験をしたんだろうなぁ。


こんな感じで、ルソー作品は多くないしそれほど飛びぬけていいものが出ていたわけではないけれども、でも統一性があって楽しい展覧会でした。美術館の中のカフェレストでお茶してから世田美を後にする。


▼参照web▼
DNP artscapeの用語説明
国際素朴派美術館@Vicqの用語説明
素朴派美術館@Berautの作家紹介

*1:用賀駅からバスが一番便利だと思う。わりと頻繁に来る…様な気がするし