ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

「中村宏 図画事件1953-2007」展

久々に美術図書館に用事があって現美に行く。土曜日も仕事だ〜やだな〜と思いつつも、前日に「現美行きますよ〜」と伝えた学芸員の方に会いがてらチケットを貰ったので(ご飯までごちそうになりまして、なんだか純粋にタカりに行ったかのようだ)、図書資料の収集後に、休憩気分で展覧会2つを見る。休憩と呼ぶにはちょっと腹にもたれそうな2展ではあったが。

今回の記事では、まず「中村宏 図画事件1953-2007」展を取り上げる。澁澤龍彦の文章や夢野久作の図書装丁で既知の作家名ではあったのだが詳しくは知らず、イラストレーター・装丁家だとばかり思っていた作家だった。油彩画もそのイラスト以上のおどろおどろしさがあり、予想以上に楽しむ。ついうっかり骸骨の透明シールまで買ってしまった。買ってしまったはいいが、どこに貼ればいいんだろう。


中村宏 図画事件1953-2007
―異系の絵画者、その半世紀の記録
空に浮かぶ蒸気機関車、セーラー服姿の一つ目少女、高速で流れる車窓の風景…。戦後一貫して具象にこだわり、独自の絵画を追求してきた中村宏(1932-)の作品は、観る者に強烈な印象を残します。1950年代、政治的・社会的な事件や事象を取材して描かれた作品群は「ルポルタージュ絵画」として注目を集めました。
本展は、油彩画約100点に、装丁・挿画・イラストレーションや資料など約200点を加えた総数300点を通して、制作の全貌を明らかにするものです。
さまざまな事件や事象を記録し伝えるところからスタートした中村の作品は、現在に至るまで、常に実際の鑑賞者を念頭において構想され、観る者の視点を捕らえるための独自の探求が続けられています。それゆえ中村の作品は、何よりもまず、ひとりの鑑賞者が事件に遭遇するかのように出会う画面として現れてくるのです。常に個々の鑑賞者をまきこみ続ける「図画事件」の連鎖、あるひとつの異系の絵画の全貌をご紹介します。(オフィシャルページ「展覧会によせて」より抜粋)


普段は現美の常設室にある1955年の《砂川五番》(砂川事件*1を元にした作品)は記憶にありましたが、この作家が夢野久作のあの絵の作家だとは!と、知らなかった線が繋がる個人的発見から始まる。



展覧会はクロノロジックな並びで、作風の遍歴が見てわかるようになっている。初期は《砂川五番》にみるような肉厚のマチエールで重苦しく描かれた作品が多い。それと同時に、男性用便器のモティーフと一つ目のモティーフが繰り返し偏執狂的に現れる。“気の違った岡本太郎”寸前の人、という印象を抱いた。


  
次の部屋に入ると、そこに目立つのは白壁にプリントされた、金色の雲に乗る一つ目の女子学生。そして主に、一番見知った作品が多いグラフィック作品が展示されていた。大学祭のポスターなども多く制作しているのだが、奈良女のポスターにはちょっとびっくりした。男性便器に一つ目女子学生たちがぎゅうぎゅう詰めにされているのだ。彼の当時の作風なのでその絵自体には驚かないのだが、奈良女がこれを採用したっていうところにびっくり。これが時代ってものなのかしら。
『ぴかぴかのぎろちょん』*2や、『赤いろうそくと人魚』(これは結局書籍化されなかったのかな?わたしが持っていたのは違う絵だったし)など、懐かしい児童文学の挿絵も見られて嬉しい。

一つ目の女子高校生というモティーフを更に発展させ、おそらく趣味であったのだろう戦闘機や機関車といったメタリックな機械と融合させる。女体とメタルの融合という発想自体はそれほど珍しいものではないのだが、中村絵画の特徴は彼女達の肉体をメタルと同化させたばかりではなく、その特徴的なフォルムをより際立たせたところにある。お尻に強い興味を抱いた彼は、メタルと化した彼女達の肉体を、背後から眺める構図で描く。または腰を高く突き出した形で見せ付けるように描く。そこには美しさはなくグロテスクなエロスのみが漂う。



やがて機械への愛好が強くなり、機関車や戦闘機のモティーフがメインになってくる。正直言ってわたしは機械にはとんと興味がないので(プラモデルを作るのは嫌いではないが、それは組み立てるのが好きなのであって、出来上がる形体はどうでもいい)、このあたりから面白いと思う作品がなくなる。B2Fの展示室は殆ど流し見だったなー。特に90年代以降は、技術的にすごいとは思うが心惹かれはしない。鑑賞後もう一回前半部(1F展示部分)を見てから会場を出る。(27-01-2007)



▽関連リンク
浜松西高/青春群像、中村宏編


▼会期:2007年1月20日〜4月1日まで
     10:00-18:00、月曜休館

*1:1955年、当時の北多摩郡砂川町(今の立川市砂川町他)に米軍立川基地拡張の通告をされたことから始まる、測量技師を守る警官と地元農民をはじめとする民間人との闘争。砂川は当時、ウド栽培で生計を立てていた農家が多かった為、土地を取られることは死活問題であった。

*2:SF的児童文学の佐野美津夫の著。一時絶版状態でしたが、ただ今復刻版が現美でも販売中。