ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

ヴェネツィア展@江戸博

朝から江戸博へヴェネツィア展を見に行く。仕事の絡みで行かなくてはいけなかった展覧会なのだけど、カルパッチョの《二人の貴婦人》が東京会場のみの公開ということもあり、楽しみ。
江戸博のオープンは9:30とやや早いのだけど、バスと電車の乗り継ぎが良かったのでオープン前についてしまった。すごく前のめりな人みたい。。。


会場に入ると、壁やパネルなどの造り込みのゴージャスさに驚かされる。展覧会にある程度の造作はもちろん必要なんだけど、ここまでやられちゃうと、作品よりも会場に目がいくような気がして正直あまり好ましくはない。でも展覧会という空間を楽しみに来るタイプの人には、このくらいお金がかかっている方が満足感を与えていいのかな〜?最近東博もすごい造作をやっていますが、こういうのがスタンダードになってしまうのは困るなー。


まずはヴェネツィアと言えばライオン*1ということで、木彫のライオン像が展示されます。よく持って来たね、これ。大目玉である《二人の貴婦人》は置いといても、カルパッチョベッリーニなど良い作品が来ていることもあって、かなり輸送・保険費がかかっていそうな展覧会です。ルイ14世の地球儀の縮小版レプリカも来てたし、物量も相当だと思う。


ヴィットーレ・カルパッチョ 《サン・マルコのライオン》 1516年 カンヴァス、油彩 1300 x 3680 パラッツォ・ドゥカーレ

木彫像の近くには、大好きなカルパッチョのライオンが展示されています。顔つきが人間風で変なんだけど、でも描写は半端無く上手い。ヴェネツィアを象徴するライオンは、前足2本を陸上に、そして片足を書物に掛けており、一方後ろ足2本を海においていることで、水陸両方での権威を発揮した王国であることを表しています。



ジェンティーレ・ベッリーニ 《総督ジョヴァンニ・モチェニーゴの肖像》 1478-79(1481-85?)年 板、テンペラ 620 x 450 ミュゼオ・コッレール

この肖像はすごく良かった!落ち着いていて、暖かみがあって、総督たるに相応しい人物だなと思わせる説得力がある肖像画です。描いたのはジョヴァンニ・ベッリーニの兄、ジェンティーレ。金糸で織られた総督帽(コルノ)やマントには柘榴*2のモチーフが見えます。ジョヴァンニ・モチェニーゴは1478〜1485年までヴェネツィア総督の位にいた人物。


  
(左)ヴェネツィアの画家*3 《総督レオナルド・ロレダンの肖像》 1505-10年 カンヴァス、油彩 670 x 510 コッレール美術館
(右)ジョヴァンニ・ベッリーニ 《総督レオナルド・ロレダンの肖像》 1501年ごろ 板、油彩 615 x 450 ロンドン・ナショナル・ギャラリー

※右の作品は参照作品で、出品されていません。
1501年から亡くなる1521年までヴェネツィア総督を勤めたレオナルド・ロレダンの肖像です。上述のジェンティーレ・ベッリーニの弟が、右作品を描いたジョヴァンニ。このジョヴァンニはヴェネツィア絵画の肖像画の中でも最上の出来の作品ですが、それに負けじと良さを見せたのが、左の肖像画だと思います。窓枠を区切って右側と下側を暗くすることで、総督の衣装の豪華な装飾に目がいくようにしむけられており、ロレダンの皮膚の薄い顔の特徴などもよく捉えていました。ベッリーニ作品のような爽やかさはないですが、その分思慮深い重厚な人物像が伺えます。なお、図録解説を読んだところ、近年この作品の作者はヴィンツェンツォ・カテーナではないかとの研究発表がされているそうです。



ヨーゼフ・ハインツ・イル・ジョヴァーネ 《レデントーレの行列》 1648-50年 カンヴァス、油彩 1150 x 2050 ミュゼオ・コッレール

この作品も面白かったです。現在も続くお祭り行列の様子を描いているのですが、ペストに罹った人なのか左足が無い人物や物乞いなどと同じ群衆として商人、そして貴族や聖職者が描かれているところが中世な感じ。
このお祭り行列は毎年7月第3日曜日に行われ、ヴェネツィア本島から、ジュデッカ島に建てられたレデントーレ教会まで、船を浮かべた浮橋が組み立てられ歩いて訪れるというもの。レデントーレ教会は、1576年のペスト流行の折に疫病が収まることを祈願して建造が決定され、アンドレア・パッラーディオ設計により建設された教会です。



ピエトロ・ロンギ 《香水売り》 1750-52年 カンヴァス、油彩 620 x 500 カ・レッツォーニコ

今回《二人の貴婦人》と同じ位見たかったのが、ロンギのこの作品。老いた香水売りの女と、仮面をつけ戯れるヴェネツィアの住民たち、犬たちですら絡み合い、18世紀の猥雑さが表れている一枚です。
ロンギはヴェネツィア出身の作家で、しばしば貴族たちを痛烈に風刺するような作品を残し逮捕されたりもしているのですが、しかしそんなところが返って受けたこともあって、風俗画で一番の人気作家でもありました。
カ・レッツォーニコは18世紀に建てられた邸宅で、現在内部にはMuseo del 1700 Veneziano(1700年代ヴェネツィア博物館)があり、当時の家具調度品や絵画などが見られます。
そんなカ・レッツォーニコでも私が特に好きな作品が、今回来ていました!↓



アントーニオ・カナル(通称カナレット) 《柱廊のあるカプリッチョ》 1775年ごろ カンヴァス、油彩 1280 x 920 カ・レッツォーニコ

カプリッチョは奇想画と訳されます。このカプリッチョは2枚あって、もう一枚はアカデミア美術館に。
カナレット作品で、リアルト橋やカナル・グランデを描いたような海景画が今回来ていなかった(来ていたのはカナレット風の画家のもの)のは残念でしたが、この作品だけでも見られて本当に嬉しい。この柱絶対建物支えてないでしょ!と思いつつも、そんなのは二次元の世界では些末なことなんだよ、と言わんばかりの堂々感。服装などの筆遣いにカナレットの特徴が見えます。ほんと、砂糖菓子みたいなのです。美味しそう。



ヴィットーレ・カルパッチョ 《二人の貴婦人(あるいは高級娼婦たち)》 1490-95年 カンヴァス、油彩 945 x 635 ミュゼオ・コッレール

こちらが、東京会場のみの出品であるお目当てだったカルパッチョ。初めて生で見ました。なんて色が綺麗に残っていて保存状態がいいのでしょう!修復したとしても、元々がとても綺麗だったのではないでしょうか。
もともとコルティジャーナ(高級娼婦たち)と解釈されて来た本作。しかし、1963年に《潟(ラグーナ)での狩猟》(ロスのゲティ・センター蔵)と上下で一致するという研究発表が1963年に発表されたことで、描かれた婦人たちは夫の帰りを待つ貞節な婦人であると解釈されるようになりました。たしかに学生時代「真珠の首飾りをしているから娼婦だろうなー、でも何で犬*4?」と思っていたわたしには、イタリア絵画の授業の時にこの説を聞いて「おお!」と目から鱗だったのを覚えています。


絵画作品だけでなく、衣装や靴(カルニエッティと呼ばれる竹馬みたいな靴。高さが50cmくらいあって、花魁もびっくり)や、ピストルが入った小さな本、海図など、資料も色々あって、ヴェネツィア黄金期を楽しめる展覧会でした。

*1:守護聖人マルコのシンボルがライオンなので。エゼキエル書に因る。

*2:永遠の象徴

*3:展覧会ではヴィットーレ・カルパッチョに帰属と表示

*4:忠誠の象徴