ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

マルタのやさしい刺繍

マルタのやさしい刺繍
原題:Die Herbstzeitlosen
監督:ベティナ・オルベリ
スイス、2006年、89分 ☆☆☆

BSでやっていたのを録画してて、久しぶりにこういう映画を見ました。最近夫に合わせて車がボカーン!みたいなのばっかりだったから、ミニシアター系(ってこの言葉嫌いだけど)の映画、久々です。


◯。 histoire 。◯
スイスの小さな田舎トループ村に暮らすマルタは、夫ハンスが亡くなってからすっかり意気消沈し、喪服のまま過ごしていた。
ある日、合唱際に掲げる旗が鼠に齧られ大変なことに。刺繍が上手いと評判だったため、旗の修理を頼まれたマルタは、親友4人とベルンの布地屋を訪れる。そこで何十年かぶりに目にした繊細なレースや布地。親友の一人リジーの言葉がきっかけで、結婚を機に諦めた夢「ランジェリーブティックを開く」へと気持ちを盛り上げていく。しかしそこは小さな村。女性が下着に気を配るなんてとんでもなく破廉恥な行為だと罵られることに。。。


なんだろうなー、こういうお話って他でもあるし、どうしてもこの映画を!っていうほどでもないんだけど、でも現代版『人形の家』って感じでありかな、と。基本的には《リトルダンサー》と同じように、閉鎖的な田舎町で奇抜なことをして叩かれて、でも最後には皆の応援を元に羽ばたくと言うストーリーなのですが、主人公のおばあちゃん4人(一人はおばあちゃんと呼んでいいか迷う感じだけど)がとにかく魅力的!見始めたときは、こういうのにありがちな素人キャスティングなのかと思いきや、微妙な表情とかすべてが巧い。後で調べてみたら、映画や舞台で大活躍している人たちばかりのキャスティングだったようです。道理で。

おばあちゃんたちの奮闘というよりも、彼女たちを取り巻く人々それぞれの事情が少しずつだけどきちんと示されていることによって皆が表面的なキャラクターにならず、間違ってるかどうかは置いておいて、とにかく「生きてる人たちだなぁ」と思わせるところが見所。
また、親子の対立が2家族で展開されるのだけど、その描き方もちょっと新しい。というのも、対立の結果として、母と子(又は父と子)の絆を再確認というパターンが多く描かれると思うんだけど、この映画は”子どもはいいから私たち夫婦でやっていきましょう”という珍しいパターン。”親子は血がつながっているから最後には分かり合える”というメッセージではなく、”夫婦と言う自分たちで選んで一緒になった人との関係を大切にしよう”というメッセージの方が強い作品でした。否応無く関係を迫られる親子関係よりも自分の選択を、というあたりが「わーヨーロッパだなぁ」と思わせました。


原題のDie Herbstzeitlosenは、Herbst-zeitlosenとも表記し、フランス語ではColchique d'automne、日本語ではイヌサフランというユリ科の植物だそうです。マルタが刺繍してたの、薔薇?とか思いながらみてたんだけど、イヌサフランだったのかしら。

最近機内誌でルーマニアの刺繍のエッセイを読んだばかりだったので、スイス刺繍についても知りたくなりました。あと、マルタが開くお店の名前はPetit Paris。わたしもパリのお気に入りの下着屋さんに行きたくなっちゃいました。