ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

ヴェネツィア絵画のきらめき展

一ヶ月も前の展覧会の話ですが、せっかく「日本におけるイタリア年」なのでメモを残します。
ヴェネツィア絵画のきらめき 栄光のルネサンスから華麗なる18世紀へ展は2007年9月2日〜10月25日までの会期で、渋谷のBunkamuraにて開催されました。あたしが行ったのは20日(土)の夜。この会場は金・土が21時までなのが嬉しい*1。しかし、おや?思っていたよりも人が少ない。。。メインヴィジュアルがティツィアーノなのにいいのか??


さて、凝った展示で有名なBunkamura、期待していたとおりのゴージャスさでした。だってまず壁が薔薇色。ソファーはダマスク織のようなカバーかかってるし、そして何より「ダンスホールかよ!?」って感じの大絵画の部屋には、ファビュラ〜ス☆なヴェネツィアングラスのシャンデリア! Barovier&Toso のものだそうです。ここは当時ヴェネツィアで名を馳せていたのであろうコルナーロ家歴代統領たちの肖像画が置かれていたんだけど、えっとコレ個人蔵なんですか。。。今でもすごい屋敷に住んでるのかななぁなんて思う*2。このドージェたちの肖像の中ではセバスティアーノ・リッチが要チェック(真ん中に配置されている絵の作者)。ヴェネツィアン絵画史の最重要人物のひとりです。彼の描く物語画も良い。


会場構成は3章立てで、第一章「宗教・神話・寓意」、第二章「統領(ドージェ)のヴェネツィア」、第三章「都市の相貌」。4.5・1・4.5といった割合。

第一章は事前に物語を知らないと楽しみにくい内容かもしれないけれども、バッサーノやティントレットのようなやわらかい色彩の作品が多く、暖かい感じで見られる作品ばかり。
メインビジュアルであるティッツィアーノの《洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ》も血みどろ加減が少ない作品だしね。というかタイトルを見ずにポスターでこの作品を見たとき、てっきりユディットなのかと思ってました。だってこのサロメベリーダンスしそうに見えないんだもの。体つきもふっくらしてるし表情が穏やか過ぎる。背景に青空見えてるし。。。

一番面白かった作品はヨーゼフ・ハインツの《アイソンを若返らせるメディア》。解説パネルでもボッスやブリューゲルが引用されていたように、細かい妖怪が百鬼夜行的に登場する、この上なくファンタジックでミステリアスな作品!これ絶対葉書買う〜と思ってたら、やっぱり人気みたいで売り切れてた(涙)。


アイソンを若返らせるメディアの物語

ギリシア神話の、アルゴー船の物語に関連した一場面。アイソンは、息子イアソンがまだ幼かったため王位を弟ぺリアスに譲ったのですが、しかしイアソンが成人してもぺリアスは王位を還してくれない(そりゃそうだ)。そこでぺリアスは、コルキスにある金羊毛を取って来たら王位を渡すと言う。そして金羊毛を取りに行くためにイアソンが作った船がアルゴー船です。
コルキスについて、アフロディテの助け(コルキス王アイエテスの娘メディアがイアソンに恋するよう仕向けた)もあり無事に金羊毛を手に入れたイアソンたちは再びアルゴー船に乗って出発。ずるい手を使って金羊毛を取られた上に娘メディアまで取られたアイエテスは怒り狂って追っかけてきます。ところが恋に目がくらんでいるメディアは、同船していた実の弟アプシュルトスを殺してその体をバラバラにし、父の船の前に投げ捨てる。アイエテスは変わり果てた息子の姿に動転して、メディアの乗る船を追う気力を失ってしまいました。
さて無事に金羊毛を持って帰ってきてしまったイアソンに、ぺリアスは困ってしまいます。言い訳をしながら譲位の日を一日のばしにしていたそんなある日、イアソンは年老いた父アイソンを若返らせることができないだろうかと、新妻でかつ魔女であるメディアに相談します。メディアは多種の薬草、牡鹿の肝臓、狼の腸、亀の甲羅、烏の頭などをぐつぐつ煮込んで緑色の液体を作ります。そしてアイソンの喉を裂いて血を全部出してしまい、代りにその液体を流し込んだところ、よぼよぼの老人だったアイソンはすっかり若返り、中年のようなたくましさを取り戻すのです。
ここまでがアイソン若返りの物語なのですが、因みにその後の話:ぺリアスの娘も自分の父を若返らせて欲しいとメディアに頼み、メディアは同じように得体の知れない液体をぐつぐつ。そして娘にナイフを渡してぺリアスの喉を突くよう言います。恐怖におののきながら娘は父にナイフを突き立てメディアの作った液体を流し込みますが、しかし今回のそれは実は魔法の液体ではなく、ぺリアスは死んでしまい、王位はイアソンに譲渡されました。


シャンデリアの飾られた第二章のコーナーを過ぎると、第三章はつまりヴェドゥータがメインなんだけど、ロンギが4点見られたのが嬉しかった。この人の描く男女の駆け引き絵画はやっぱり面白い。見ているうちに自分でどんどん物語を空想してしまえる奥深さがあるのだ。この、にやっとした表情の女性の書き方がいいんだろうな〜。

そしてヴェドゥータ。ガブリエル・ベッラが一番多かったけど、そしてそれも面白かったんだけど、やっぱりカナレットとグァルディが好き。グァルディのざらついた印画紙のような作風もすきだけど、カナレットのつるつる×ザラザラの異物混在感も好き。波の白い線が、いつも砂糖菓子に見える。



18世紀絵画を中心としたヴェネツィア絵画展、ぴっちりまとまってかつ見ごたえのある作品(それは小作品であることが多いのだけど)も多い、楽しめる展覧会でした。
巡回展だったようで、Bunkamuraの前には豊田市美、静岡県美、大分市美があって、現在は2007年11月3日(土)〜12月9日(日)の会期で鳥取県博に巡回しています。山陰地方の方はお出かけになってみてはいかがでしょう。

*1:夜間開館がどこも金曜日っていうのは、結局美術館にいける火が金曜日しかないことになるので、もっと色んな館で曜日を分散させて欲しいものです。

*2:“美術館寄託の個人蔵”という可能性をすっかり忘れていた。