ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

ベルト・モリゾ展

新宿の損保ジャパン東郷聖児美術館で開催中の、ベルト・モリゾ展に行ってきました。土曜日なのでまぁまぁ混んでる。しかしオルセー展でマネの描いた《菫の花束をつけたベルト・モリゾ》が日本に来たので(しかもポスターになって)、てっきりこのモリゾ展は盛り上がるだろうと思っていたのに、あれ?いまいち話題にならない。。。なんで??もっと混みこみだと思っていたのになぁ。鑑賞者としてはべつにいいけど、でもうーん、印象派はもう早人気ではなくなったのか?あるいはPRが下手だったのか?


さてベルト・モリゾ。19世紀後半を華やかに駆け抜けたこの女性画家(1841-1895)は、当時としては非常に珍しく職業人として生き方を貫いた女性でした(だからフェミニストに人気)。ブールジュに生まれ、国家公務員(って呼んでいいのかな?)の父と優しい母親、それに双子のように理解し合える姉妹(特に姉のエドマ)に囲まれ、ブルジョワジーな人生を送る。個人的には、美人で、幸せな結婚をし、生涯生活にも困らず、しかも絵も彫刻も上手くて、っていう落としどころの無さがいまいち20世紀美術史において注目を集めず、今世紀までマイナープレーヤーだった敗因なんじゃないだろうかと思うんだけど、どうでしょうか。だって“物語”を語るにはどうしたってゴッホのほうが面白いしピカソのほうがスキャンダラスだもの。ゴシップと紙一重な面白さが、モリゾにはない。唯一マネと男女関係があったんじゃないかっていう疑いくらいか。でもマネの実弟ウジェーヌと結婚して娘が生まれてからもマネとの交流は耐えてないところを見ると、やっぱり関係は無かったのか、はたまた関係があっても隠し通していたのか(昼メロ風)。まぁそのくらいしか私生活の面白みは無い画家です。だからこそ作品に集中できるんだけど。


すばやく光の揺らめきを捉えるモリゾのタッチは、モネが光の移り変わりを捉えたのとは似て非なるもので、モリゾは“移り変わり”よりも“反射”に興味を持って制作していたように感じる。彼女は木漏れ日や海面や湖水を多く描く。ファッショナブルな上流階級の女性も描くモリゾだけど、もっと日常の生活を描くほうが多かった。それは別に家庭生活の記録を描くというスタンスではなく、(舞踏会の行われる)夜の室内よりも、昼間の公園のほうが光に満ちていたからという単純な理由からではないだろうか。
今回の展覧会出品作は、美術館所蔵品よりも個人蔵の作品が多かったことが大きな特徴。例えばモリゾの作品をググってみると出てくるような有名な作品(例えばオルセーの《ゆりかご》マルモッタンの《舞踏会にて》など)は出品されていないけれども、普段は個人のおうちにあって展覧会という機会でもなければ一般人では見ることが出来ないような作品が多くあった。美術展に行く作業が「知っている絵を確認すること」である人には面白くないものだったかもしれないけれど、逆にモリゾに対して少しでも前知識があってなおかつ好奇心のある人にとっては、非常に有意義な内容であると思う。


アンニュイな美しさの《夢見るジュリー》。あたしのまわりの男性陣の評価は皆一様に彼女に向いていました。女性陣はやっぱり幼いジュリーちゃんを描いた作品(《砂遊び》とか《寓話》や、わたしが今回の中で一番好きな《人形を抱く少女》など)が好きな人が多いみたい。この無邪気な可愛さが、十代の思春期に入るとここまでアンニュイな雰囲気を生むのか!っていうそっちのほうが個人的には興味がありますが。てかフランス人の女の子は、14,15歳ごろが一番魅力的だと思う(あとは30過ぎてからね)。

それはそうと、この辺の時期になってくると時代も世紀末。印象派の画家達のタッチもずいぶん変化し(ルノワールが分かりやすいんじゃないだろうか)、モリゾも例に漏れず粗いタッチからじっくり描く方向性を強めます。それが如実にあわられているのはこの《夢見るジュリー》だと思う。肖像画意外ではいつもぼやぼやとはっきり顔を描かなかったモリゾが、これほど明確な線で表情を描くとは。


この展覧会でモリゾのパレットが展示されたのだけど、パレットには女の子(多分ジュリー)が描かれていて、本当に可愛い。絵が一部変な高さでかけられていますが、これは絵の元々の配置を重んじた結果だそうです。《ガチョウ》は元暖炉の上にあった作品で、《裸の羊飼いの少女》はドアの上にあった作品らしい。でもだからってこの微妙な高さにかけるのはどうなの。。。普段遠くにあって見えないものを近くで見られるのが展覧会の特権であると思うので、やっぱり見やすい高さで見たかったなー。


女性かどうかは別にどうでもいいとして、非常に才能ある印象派画家の一人であるベルト・モリゾの展覧会は11月25日までです。あと1週間なのでお早めに!

詳細→損保ジャパン東郷聖児美術館サイト