ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

笑いの美術①

森美術館で開催中の「笑い展」「日本美術が笑う」を見る。頂いたのが2枚綴りのチケットだったので、別個の展覧会なのかと思っていたのだけど、中でつながっていました。個人的には日本美術のほうが面白かったし笑えました。というわけで、今回の記事は「日本美術が笑う」展について。


展覧会アドバイザー(監修とは違うのか?)に日本美術研究者の小林 忠氏(学習院大学)と山下裕二氏(明治学院大学)を迎えての展覧会で、特に山下先生の色が強いように感じた展覧会でした(白隠大プッシュだったし)が、小林先生もユーモラスな方だと聞いているので、まぁ必然の結果かと。
展示ケースには建築家の千葉学氏が参加。宗達らの掛け軸を展示したケースは、確かに今までの日本美術の展示の方法ではありえなかったかも。近くで見られるし、良い展示形式だと思いました。


セクション分けは5つ。

1.土の中から〜笑いのアーケオロジー*1:土偶、埴輪
2.意味深な笑み:寒山拾得、近世初期風俗画、麗子像
3.笑いのシーン
4.いきものへの視線
5.神仏が笑う〜江戸の庶民信仰

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埴輪はやっぱり無類の可愛いさだ。同じ土人形でありながら、兵馬俑はあんなに可愛くないのに(と東洋美術史の後輩に言ったら怒られた)。笑わせるために作っているわけではないだろうに、ぷっと吹き出す可笑しみがある。それは現代の視点で見るから可笑しいのかもしれないが、しかしもしかしたら縄文人だって笑わせようとしていたのかも知れない。今となってはわからない。とにかく心が温かくなるような笑い。楽しくて笑う、幸せで笑う、そんな優しさのあるセクション。



続いて近世絵画へ移る。麗子像は多数あるが、今回展示されている2点は比較的“怖く”ない麗子。寒山拾得を描いた作品では曾我蕭白が頭にすぐ浮かぶのだけど、今回展示されている中では若冲寒山拾得が気が抜けてて良い。適当すぎる。拾得の箒まで適当だ。応挙の三美人図はブスだった。ていうか、応挙の描く犬の顔をしていた。これ、本当に美人を描こうとしていたの?カリカチュアなのでは?


ソニーが今回ものすごく協力しているようで、液晶テレビが会場の所々にある。タッチパネルで絵を拡大して見せたり絵巻を見せたりしていて、セクション3では洛中洛外図に適用されている。アップで見るとものすごい下手さに笑ってしまう。石灯籠とかもう、粘土細工みたいだった。絵が下手ってだけでとにかく笑える。
《病草紙》はわたしの好きな絵巻のひとつなのだけど、うーん、笑いっていえば笑いか…という出品作品。侏儒を子供たちが笑っている場面で、絵巻から切り離され軸物として保管されていたという。ちなみに御伽草紙もので笑えて個人的にお勧めなのは《鼠草紙》*2です。
暁斎の放屁合戦や、三福神の遊郭通いなど、下ネタはいつの世でも笑いの対象のようだ。遊郭に行った恵比寿、大黒、福禄寿は、あとで弁天様に怒られるんだろうか。


    
セクション4では、いまや一般的に浸透したイメージとなったであろう、若冲の白象図のお軸が目に入るところから開始する。犬や猫、猿などよく描かれていた動物たちに加えて、神坂雪佳の金魚は新鮮でよかった。正面切って捉えることの面白みを発見したのは彼ではないだろうが、しかし金魚をここまでまっすぐ捉えるとは!芦雪はやっぱり虎図の可愛さに勝つものは無いが、この牛も好き。



最後のセクションは、ちょっと前の東博・仏像展とだいぶ被るので、新鮮な面白みはあまり無い。でも円空と木喰の仏様の面白さは再認識。子安観音の子ども、小さすぎだよ…。
あとはやはり白隠です、ここの主役は。白隠慧鶴は臨済宗の禅僧で、その庶民的なところが人気の僧侶だが、彼の描く絵はちょっと中国絵画っぽすぎて実はあまり好きではなかった。達磨の顔とか怖いし。でも!今回は仙突並に可愛い作品が!こんな可愛い絵も描いているなんて知らなかった。見直しました。南天棒は相変わらずちんまりと可愛い。



笑える日本美術という、今までに無い日本美術の見方を提示しようとしたのだから(ケースは新鮮だったし)、図録も工夫してくれれば良かったなぁ。表紙は可愛いのに、中身はいつもの展覧会図録。隣の「笑い展」くらいはじけろとは言わないが、もうすこし面白みのある図録作りにしても良かったのではないだろうか。山下先生と赤瀬川源平とで、もっぺん図録を作ってみては?(14-02-2007)

*1:アルケオロジーのほうが一般的だと思ってたんだけど、違うの?

*2:サントリーか出光かどっかへ日本美術史の課外授業の時に行って見たんだけど、最後には出家しちゃう鼠の話なの。鼠の剃髪は何処まで剃るのか、と授業で話題になりました。これまた絵が下手で可愛いのです。