ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

ベルギー王立美術館展

今日から上野の国立西洋美術館で始まる「ベルギー王立美術館展」のレセプションに行ってきました。西美のレセプションは初めて行きました。警備の都合上なのか、レセプションパーティー中に(お偉いさんの話を聞かずに)絵を鑑賞するということが出来なくて(フロアから出される)、なかなかしんどかった。

展覧会は明確な章立てがあるわけではないのだが、なんとなく5章構成。
1)フランドル黄金時代
2)都市の光景
3)森の光景(素描)
4)19世紀サロン画
5)近代絵画

3までは17世紀だったのに、いきなり隣部屋の4から19世紀にジャンプアップしてしまうので、そこが違和感。アンソール作品が見られるのは個人的にはとても嬉しいが、しかし展覧会の流れとしてみたら3で止めておくべきだったのではないだろうか*1ブリューゲルは色あせないとしても、それ以外の作家の力が弱くなってしまう。17世紀フランドル絵画だけで良かったと思うけどなぁ(付け加えるとしたら17世紀作品を元に作り上げた近代絵画のセクションくらいか)。


さて、今展覧会の目玉は、もーなんと言っても《イカロスの墜落》来日!この時期ブリュッセルを訪れている人には申し訳ないですが*2、生で見たくて見たくてたまらない絵だったので、本当に嬉しい。この作品は父ブリューゲルの作品であると確証が得られていない作品なのだが、誰が描いたにせよ、すごい作品である事は間違いない。空と海の広々として澄み切った色彩の表現*3、主題であるはずのイカロスの表現が非常に小さいという謎めき。日本語だとタイトルは《イカロスの墜落》だけど、額縁にくっつけられていたフランス語のタイトルは《イカロスの墜落のある風景 Paysage ave la chute d'Icare》だった。つまりこれは神話画ではなくて風景画ということなのか*4。物語との矛盾点もいくつかある*5し、見れば見るほど興味深い作品だった。ちなみに近いうちに王立美術館のキュレーターが、この作品に関する研究論文を発表する予定らしい。
あと今回はヨルダーンスが数点、特に《飲む王様》が来ているのも特筆に価する。エピファニー(顕現祭)の王様ゲームの様子を描いたこの作品は、市民風俗の下卑た面を実に下品に描いた秀作。以前は隠されていたという子供のお尻やおっさんの反吐などが修復され表に現れている。酔っ払いすぎて顔がモーフィングされちゃってる人物もいて、愉快な一作です。
展覧会構成的にはいらないんじゃないかと思う後半2つのセクションだが、魅力的な作品はある。誘惑度の高いフェリシアン・ロップス、ジェームズ・アンソールなどだ。ロップスは今回来ている物は誘惑度低いけど、《口論》などはファッションポートレイトのようでいてゴシップ記事のようでもある。かなりキャットファイト。これ、塗り絵で欲しい。あと個人的に嬉しかった一作は、アンリ・エヴェヌポルの作品。彼はギュスターヴ・モローの弟子であり、27歳という若さで死んでしまった画家なのだ。これがまた可愛らしい女の子を描いているもんだからキュンとする。


東京の会期は12月10日まで。その後長崎県美術館(来年1月から3月)と大阪の国立国際美術館(4月から6月)に巡回します。

*1:現在ベルギー王立美術館の19-20世紀のフロアは改装工事中なので、ベルギー側が好意で貸してくれたものなんだろうけど…

*2:逆にわたしはウィーン美術史美術館で、見たくてたまらなかったフェルメールが日本に行ってい悲しい思いをした経験が。

*3:この海岸風景は一体どこのものなんだろう?フランドル地方の海の雰囲気ではないような気がしているのだけど、かといって地中海っぽいわけでもなく。

*4:ただしベルギー王立美術館のwebでは単に La chute d'Icare だったのだけど。

*5:例えばダイダロスがいないとか、イカロスは高く飛んで蝋の羽が溶けたはずなのにこの画面では太陽は水平線近くにあるとか。