ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

アフリカリミックス展

5月末から開催されていた森美術館「多様化するアフリカの現代美術 アフリカリミックス」展を見てきた。事前にアップしようと思っていたのにできなかった…今日が最終日。森美術館のいいところは、火曜日以外は22時閉館という点(火曜は17時)。仕事帰りに行ける時間設定は嬉しい。現在大平貴之氏による赤道直下の星空を再現した「プラネタリウム・アフリカーナ」も展示中*1、しかも美術館のチケットで入場出来るということなので、それを見るためにも仕事帰りに行く事にした。

さて、相変わらずセンターアトリウムの堂々とした感に圧倒される。エスカレーターの手摺まで展覧会に合わせるって、どんだけお金かけてるんだろう…と思わざるを得ない。会場全体はジャマイカンカラーでポップ。フランスに住んでいる時に思ったんだけど、アフリカ人の色柄合わせって、なんであんな力技なのに、彼らが着るとはまるんだろう。やっぱり肌の黒さがあの派手な布のパワーをうまく抑えて引き締めているんだろうか。そうそう、アフリカンカラーってポップなイメージが強いけど、絶対黒がなくちゃいけないと思う。北アフリカの方は比較的薄い黒だけど、「肌が黒い」ということは彼らのアイデンティティ形成過程で絶対必要な要素なんじゃないだろうか。ポスターなどでも中央に黒色を用いていた点が良かった*2

展覧会は3部構成。

1)アイデンティティと歴史
2)身体と魂
3)都市と大地

今回出展されたアフリカの現代作家のうち、自国で活動してる人はどのくらい居るのだろうか。出身国はリーフレットにも表記されているので分かるのだけど、例えば内戦が続いている国の出身者は亡命したり、あるいは親の世代で亡命して国籍的にはアフリカに属していない作家も居るのではないだろうか。自国での作家活動と、移民先で“外国人”としての作家活動とでは大きく内容が異なるのではないかと考えているわたしには、彼らの居住地も大きな関心のひとつである。

1)アイデンティティと歴史

    アフリカの人種は主に、南の方の黒い(初めて近くでアフリカ出身の人を見た時にその黒の深さに驚いた)人と、マグレブのようなやや薄い人がいると思うんだけど、この展覧会では“アフリカ大陸”という括りでの“アフリカ”なので、ブラックアフリカンの文化とアラブ文化という両方のアイデンティティを見る事になる。展覧会を見る前は、わたしの頭は“アフリカ”=ブラックアフリカンだったので、最初の方で Mounir FATMI ムニール・ファトミ@モロッコの Obstacle を見た時にちょっとした衝撃があった。そうだ、北アフリカはアフリカだったんだ、と。アラブと馬は欠かせない。数年前にパリのアラブ世界研究所で見たアラブと馬に関する展覧会を思い出した。 そしてなんと言ってもこのセクションの最大のテーマは植民地政策とアフリカ。 Andres BOTHA アンドリス・ボタ@南アの History has an aspect of oversight in the processe of progressive blindnessインスタレーションは土着ボルタンスキーという印象。モアイ像みたいなものが詰められたキャビネの後ろには大量の男性の東部彫刻が。数で見せるのもまだ有りだなぁと思わせるものだった。 悪夢的に気持ち悪く面白かったのは、 Jane ALEXANDER ジェーン・アレクサンダー@南アの African Adventure 。狒々のような猿(でも靴を履いている)や夜行ネズミのような顔の怪物、狼?の毛皮を着た犬、腰に鎌や戦車を括り付けられ頭をぐるりと布で覆われた人間(でも覆いを取ったら人間じゃないのかもしれない)などのフィギュリンが赤土の舞台に立っているというもの。夢に見そうな気持ち悪いのは好きです。 Hassan MUSA ハッサン・ムサの Great American Nude にはちょっと笑わされる。アメリカ国旗の背景のもと、ブーシェ作品のお尻丸出しな少女のポーズをしたビン・ラディンがいる。適当にうまいので笑うんだろうなぁ、これは。 William KENTRIDGE ウィリアム・ケントリッジ@南アは線描のアニメーション作品 Johannesbourg, Second greatest city after Paris を作っていたんだけど、この人の作品、他でもどこかで見てるんだよなぁ水戸芸かカルティエか。
2)身体と魂
    展覧会中で一番好きだったのは Jackson HLUNGWANI ジャクソン・シュルングワニ@南アの Adam and the birth of Eveシオニズムの神父であるこの作家は木の元々の出っ張りを活かして造形している。「生」に加える「人工」をぎりぎりまで抑えて制作されたこの彫刻作品は生命力に満ち溢れ、イヴが生まれ出でるその様を語る。 Eileen PERRIER アイリーン・ペニエ@ガーナは、 Grace というすきっ歯の6人の写真を展示。なんですきっ歯…?そして優雅…?そういえば歯列矯正が一般的ではないせいなのか、すきっ歯の人は外国でよく見かける。『チボー家の人々』をDVDで見た時に、登場人物の女性が自分のすきっ歯を指して「幸せを呼ぶのよ」って言ってたけど、だから直さないのかな? 真っ白な部屋で数人の白装束の男子が自ら腕を剃刀で切って血を流している作品は、Loulpu CHERINET ルル・シェリネ@エチオピアの Bleeding Men 。まんまなタイトルだよ…。どうやって切り始めるのかとか終わるのかが知りたくて全部見たんだけど*3、普通でした。何か起こるわけでもなく。
3)都市と大地
    会場が広いのでもうこのあたりでへこたれて来てますが(森美の総面積分からないけど、すごく広く感じる)、最後のセクションにようやく入る。 Berry BICKLE ベリー・ビックルジンバブエの作品 Swimmer は、像の胎児の木乃伊写真。1,3,6,8ヶ月の4枚組写真なんだけど、へその緒がすごく太い。そして1ヶ月目はヒトとほぼ一緒であることを久々に(生物で習った時以来)目で見て改めて感動。 Vim BOTHA ヴィム・ボタ@南アの Commune, Onomatopoeia は天井の装飾クッキー(正式名称はなんていうのかしら…釣燭台をぶら下げる場所の装飾天井のことを言いたい)からぽたぽたと水が垂れてくる。それが斜面になって中央が空いているテーブルの上に落ち、テーブルの穴から下のブリキのバケツに落ちる仕組み。水道線が見えなかったので、天井クッキーにあらかじめ水が溜まっているのかと監視係に尋ねると、そうだとのお答え。定期的に学芸員が水を注ぎいれるのだそう。大変だ。

さて展覧会全体としては、つまらない作品も結構あったけど、やはり民族のアイデンティティと結びついた作品はそれなりに興味を引かれる。日本のように「(基本)一民族一国家」という状況はありえない情勢なので、資本主義寄りの作家、アンチ資本主義・アンチアメリカ・アンチ宗主国の作家、土着への固執を見せる作家、様々だ。自己の土着性を意識してそれを敢えて表に出す表現方法を取る作風は個人的には好きではないのだけど(だって外国で受けるに決まってるもの。確信犯だもの)、にじみ出てしまう土着性を垣間見せられるのは好きだ。美術が進歩発展するものであるという考えに則ってみるならば、アフリカンアートは発展途上であり先進国の後追いに過ぎない(特にテクノロジー利用系の作品)。それでもポリティック無しにイイと思える作品にも出会えたし、行って良かったと思う。(28-08-2006)

*1:これまた今日8月31日まで。靴を脱いで横になって見られるんだけど、人が多すぎてなんかもー、全員野生人状態に見えます。

*2:今回の展覧会のアートプロデューサーの名前が友人と同姓同名だったので、「え?まさか!」と思ったのですが、発音が一緒でも漢字一字違いでした。あーびっくりした。

*3:見ている間に、数人の女性が画面を見た途端「きゃあっ!」って言って目をそらし、画面を見ないように他の作品へ移動していくのを見たのですが、個人的にはなんでこういう画面が見られないのか謎。