ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

バイユー

※写真紛失中!見つけたらアップします。


日本帰国直前の駆け込み旅行第一弾は、ノルマンディーの田舎町 Bayeux バイユーです。ノルマンディー上陸作戦で一般的に名を知られるこの町ですが、目当てはE.ゴンブリッチの著作でも挙げられている有名なタピスリー。

パリ〜カン(Caen)間のチケットが安く買えるうちに、と急いで決めました。オンライン販売の格安切符は早目になくなるので注意!
Caenから、J.ドゥミのミュージカル映画シェルブールの雨傘》で有名なCherbourg行きの電車に乗り換えます。パリから乗り換え無しで行ける電車も、日に数本あります。切符の値段やタイムテーブルはSNCFサイトでチェック。


パリ・サン=ラザール駅を朝8時40分に出発、カンに10時44分に着。乗り換えの切符を買って11時7分の電車に乗る。そして11時24分バイユー到着。フランスは、国内を縦に移動するのはとても速いのだが(TGVが普及しているため)、横に移動するのは時間がかかる。


バイユーの駅に着いてから、国道のような大きな道路を渡ってサントルヴィルへ。サントルまでは10分くらい歩かなくてはいけない。トラックもたくさん通るし、なんだか殺伐としたところなのかと思いきや、サントルは非常に小さく纏まっていて可愛らしい造りの家が多い。ムーミン谷のような家もあって、町全体が玩具で出来ているみたい。行ったのが冬なので花も何も無かったけれど、もしかしたら春や夏はとてもいい町になるのではないだろうか。


サントルに着くと、まずカテドラルを後ろから眺めることになる。その後姿は何故かオーヴェル=シュル=オワーズの、ゴッホが描いた教会を思い出させる。カテドラル本体の石の色のせいだろうか?それとも立地条件のせいだろうか?わたしだけでなく同行者も同じことを思ったので、両地を体験した人に是非アンケートでも取りたいものだ。

内部は、恐らく戦争で破壊されたのだろう、だいぶ修復されていてすっかり新しい。東(内陣)に向かって左手に浮き彫りの聖母マリア像があって、それがなかなかキッチュな色使いで可愛い。聖書にかかれる幻想風景を忠実に再現しようという信仰の一心で作っているのだろうけど、なんだか子供の紙粘土細工を想像させるのだ。わたしのデジタルカメラは明かりを取り入れる性能が著しく低いので(フラッシュついてないし)、ぼけぼけの写真しか撮れなかった。内陣の装飾はフィリップ・アルクール(Philippe Harcourt, 在位1142-1163)の時期のもの。

聖堂深部には11世紀のクリプトがある。クリプト内のフレスコ画は15世紀のもの。各柱頭には天使や諸聖人たちが、北側の壁には首を斬られ横たわる祭式者ジェルヴェ・ドゥ・ラルション(Gervais de Larchamps)、もう一方の壁には同じく祭式者がマリアと共に描かれている。


カテドラル見学を終えてお昼ご飯を食べる事に。前日にネットでバイユー観光について調べていた時に出てきたレストランに行こうと思っていたのだけど、週の真ん中を休むお店だったようで、運悪く我々の行った木曜日はお休み。仕方なくカテドラルの方に戻って、裏手にあるお昼のムニュをやっているレストランに入る。当初の目的のレストランに行く途中で見つけたお店なんだけど、繁盛していたのでチェックしておいたのですが、なんのことはない、他のお店が閉まっているからはやっていたというだけだったのかも…。

とは言え、メニューを見るとcreme a la Bayeuxの文字が。バイユーのクリームって何だろう〜?食べてみたい!というわけで、プラ(メインディッシュ)にはそれを取ることに。わたしはアントレに帆立と野菜のバター炒め、プラには豚肉のバイユークリーム和え、そしてデセールにタルティーヌ・ショコラ(ムース・オ・ショコラを固めてケーキのようにサーブしたもの)を注文。どれも美味しかった!サーブがやや遅い(店員一人だったし)んだけど、お料理は当たりでした。量が阿呆のように多くて食べるのがしんどかったけど、でもお勧め☆【→Les Arcades : 10, rue Laitiere 14400 Bayeux】

ノルマンディーは、国内の他の地域に比べて非常に葡萄が育ちにくいらしい。そして葡萄の代わりに栽培されているのが林檎であり、その林檎から取れるお酒シードル・あるいはその蒸留酒であるカルヴァドスが名産品となっている。クレーム・ア・ラ・バイユーとはこのカルヴァドスとクリームを混ぜたソースだそうだ。ほんのり林檎味で美味しい。このお店では豚肉と合わせていたけど、林檎と牛は相性がいいので牛肉でもいけるかも。焼いたアーモンドのトッピングも素晴らしい。因みに乗り換え駅だったカンは、シードルで牛の胃を煮込んだ料理が有名らしいので、内臓系料理が好きな人は是非お試しください。


食後満腹になった我々は、ちょうど昼休みの終わったタピスリー館 Centre Guillaume-le-Conquerant へ。2月の訪問だったので、お昼休みがあったのだ。このミュゼは午前中に見学したカテドラルのすぐ裏手にあり、街中に「Tapisserie de Bayeux」と書いてある案内看板はここを指す。

入館すると、まず1階にて見学の下準備として各場面の説明がプリント表示されている。時間帯があえばオーディオヴィジュアルでの説明を見ることも可能(わりと頻繁に上映していたような気がする)。説明文を流し見て終えると地上階へ戻る形になり、まるで映画館の入り口のようなホールに出る。そこでオーディオガイドを受け取って、いざタピ見学。

全長約70m、高さ50cmのタピスリーは、左画像のようにずら〜っと伸ばして展示されている。ガラスケースはあるけど、そんなに反射しないので見易い。わたしはこのタピ、見る前は絹糸での刺繍だと思っていたのだが、羊毛だった。羊毛ならではの毛羽立ち・光沢の無さが、キルトを思い起こさせる。なんといっても色調がいい。くどい色は無く(色褪せたせいなのか?)、全てが落ち着いた秋の色。地の亜麻布のカンヴァスは亜麻本来のやや暗褐色で、その上に刺繍された青・緑・赤・淡黄のヴァリエーションのみで着色された毛糸の発色を妨げないよう工夫されている。このタピについての確認されうる最初の言及は、1476年付けのカテドラル宝物目録 Inventaire des richesses de la cathedrale であり、その中でもこのタピのイメージの鮮烈さが記述されているとのことだ。

このタピスリーは、ノルマンディー公ギヨームによる英国侵攻(1066年10月14日・ヘイスティングズの戦い)を語ったもので、この戦争の数十年後に完成した。“王妃マチルドのタピスリー( Tapisserie de la reine Mathilde )”という名でも知られるが、これはノルマンディー公妃兼英国女王であったマチルドが、女中たちと共に夫の偉業を手ずから刺繍したという伝説に基づいている(この様子を描いた油彩画は、カテドラルの右横ミュゼ・バロン=ジェラールに所蔵されている)。左から右へと、書物を読むように展開されているこの刺繍絵巻、明確な場面分けが無いにもかかわらず(上部に数字は振られているが)、見る側に混乱を与えず見事に物語を展開させている。繋ぎ目部分のが断絶せずに次の場面へと繋がっているので、異時同図法で物語にぐぐっと入り込めるのだ。天地には装飾のための動植物が描かれ、それらは時として『イソップ物語』や『フェードル』に登場する動物たちである。

タピはイギリス国王エドワードが義兄弟のハロルドを呼び、ノルマンディー遠征を命じるところから始まる。しかし日と騒動あってハロルドとノルマンディー公ギヨーム(ウィリアム)は同盟を組み、ハロルドはギヨームを英国王にすると誓って、イギリスに帰国。しかしエドワードが病死したため、ハロルドは自ら英国王戴冠。それを知ったギヨームはイギリスに攻め入り、ヘイスティングスにてハロルドを破る。そしてギヨームが英国王となる。


タピスリー見学後は、同じチケットでカテドラル横のMusee diocesain d'Art religieux et Concervatoire de la Dentelle du Bayeux, Hotel du Doyenが見学できるとのことだったので、そっちへ移動。バイユーレースやバイユー焼きなどの地元工芸品と、少数ながら絵画(地域作家もの)を展示していた。バイユーレースは大変素敵なんだけど、いかんせん町が死んでるので土産物屋もろくにあいていないので、バイユーレース購入できず。オフシーズンに来ると空いてていいけど、買い物が全然出来なくてやっぱり面白くないかも。


バイユーを17時23分の電車で出発し、カンで乗り換えて21時前にパリ着。カンでの乗換えが2時間あったらご飯食べられたんだけど、1時間じゃ食べ終わらないし、そもそもお昼に食べたものが残っていたので腹も減らず。パリに帰ってきてから、小腹がすいた時用にとパン屋に寄って帰宅。


ろくな買い物も出来ず人も少ない(ちょうど冬休みの時期なので)町への日帰り旅行でした。とはいえタピスリーは圧巻で、来て良かったなぁと思える場所でした。

バイユーには大小兼ねて全部で5つの美術館・博物館があり、更にはノルマンディー上陸作戦で亡くなった英国人墓地などもあります。

ホテル・ホステルも途中たくさん見かけたので、1泊程度の泊まりで来るのも楽しいかもしれません。もしもまた来る機会があれば、次は気候の良い時期がいいです。そしてシェルブールまで足を伸ばすか、あるいはドーヴィルへ海水浴に行く…あ、いいかも。