ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

ミュエク展評


23日の記事で取り上げたミュエク展@カルティエ財団美術館に行ってきた。フランスで最初の個展となる会場としては実に似つかわしくいい会場だったと思う。閉館に近い時間に行ったにも関わらず、高校生の集団見学や、仕事帰りらしい人々で溢れていて、今までわたしがカルティエ財団の展示で見た中で一番混んでいた。分かりにくい(とされている)抽象芸術とは真逆のハイパーレアリスムだからだろうか。
長年ガラスファイバーを用いて制作を続けてきたミュエクだが、現在展示されている作品(今展示のための新作)ではシリコンを併用している。それにより髪や体毛の植毛が可能となった彼の人形たちは、今まで以上のリアルさをわたし達に見せてくれる結果となった。展示されている作品は5つ、Wild ManSpooning CoupleMask IIITwo WomenIn Bed。二人の立ち話をしているおばあちゃんを模したTwo Womenと、スプーン寝をしている中年?カップル像であるSpooning Coupleがミニサイズの作品、残りの3点が巨大作品である。
小さすぎるか大きすぎるか、この“等身大ではない”という点が、彼の作品の第一ポイントなのではないだろうか。例えば一箇所から動かずに見た場合、視界が限定される(大きい作品は一部のみ、小さい作品は全体が目に入る)ので、近づいたり離れたりしながら細部まで良く見ようとするからだ。これだけリアルならば等身大でもよくよく眺め入るだろうが、しかし大きさが通常の視覚範囲ののキャパシティーを超えた場合は、普段より以上に凝視するような気がする。
シリコンの使用により皮膚感まで再現させた技術は驚くに値する。それでいて表情がいいのだ。In Bedの女性は、リーフレットの説明では「ベッドの中でゆっくりと目覚めた女性」と書いてるのだが、しかしどう見ても病の床に伏しているようにしか見えないし、またそう見たほうが彼女の表情のアンニュイさがしっくり来る。この女性は病であるという脳内前提で見たので、まるで病床の饐えた匂いや埃っぽさまで感じられるようだった。幻臭である事は確実だか、それでもほんとに感じたような気になるのだ。Wild Manの切りっ放した足の爪のぎざぎざだとか、鳥肌の立ち具合だとか、肉体的衰えを示す白髪交じりの体毛だとか、とにかく凄いのだ。Spooning Coupleの男が着ているTシャツなんて、汗染みまで感じられる布の古ぼけ感!
久しぶりに現代美術でぞくぞくしましたよ。お勧め展覧会です。2月19日まで!