ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

ダウンフォール

Der Untergang 邦題《ダウンフォール》
監督:Oliver HIRSCHBIEGEL オリヴァー・ヒルシュビーゲル
ドイツ、2003年、150分

原題は落下、転落、崩壊等の意味。日本では2005年夏に公開された筈。
《es》の監督の放つ長編歴史もので、今なおナチスについて強い関心を寄せるヨーロッパ国内において様々な意味で反響と関心を呼んだ作品。というのはつまり、過去描かれてきたヒトラー像というのは悪でしかなく、ヒトラーを悪として描かなくてはいけないという暗黙のルールがあったのに対し、ヒルシュビーゲルはそれを破り、人間的なヒトラーを描いたからである。すなわちそれは、ナチスの恐怖政治を曲解し憧れを抱き始めた若い世代に大して危険なメッセージなり得る、というのが反対派の主な意見らしい。しかしよく考えてみると、ヒトラーが実在の人間であったことは否めないし、バンカー(地下防空壕)で恋人エヴァと結婚式を挙げたことも事実であり、ゲッペルスのような忠実な部下がいたこともまた事実なのだ。では冷徹一辺倒の人間ではない、人間としてのヒトラーを描く意味はどこにあるのか。それは、ヒトラーもまた歴史に翻弄された人物であることを描くことで、人間のはじめたおろかな行為である戦争を追及することに他ならないと思う。

作品としてはやや長すぎるし、《es》の時のような緊張感が始終漂っていたわけではないので、個人的にはお勧め度は低いのだが、新たな歴史ものという点では見る価値はあると思う。ヒトラー役をやったブルーノ・ガンツは素晴らしい。ヒトラーが怒鳴りすぎ(ヒステリック)な印象を与えたのだけど、これはヒトラー本人がこういう人だったからなのだろうか?饗宴(狂宴?)の場面をもっときちがいじみて描いたら映画としてもっと面白くなったと思う。

軍人である前に医者であるという責任感を持って行動する、非常にヒューマンな役にはクリスチャン・ベッケル。《es》で主人公を助ける準主役シュタインホフを演じた彼は、この作品中では脇役に徹したが、そのかっこよさで際立っていた。ホントかっこいいです、この人。ゲッペルス役の人は面白い顔してました。稀有な顔。(15-02-2005)