ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

松井冬子展@浜美

かなり早い段階から楽しみにしていた展覧会です。この若さ(まだ30半ば)で公立館で個展なんてすごい。若い分作品点数はそれほどないだろうし、どういう構成なんだろう?とわくわくしながら昨日仕事の前に横浜美術館へ行ってきました。
通常展覧会を観る時って、構成とか色々考えながら観てしまうのだけど、この展覧会は、とにかく作品が面白くて上手で、作品だけをひたすら追っていったら出口に来ちゃった、という感覚でした。久々です、こんなの。びっくり。


オープニング作品は《盲犬図》(2005年)。日本画における犬の絵といえば、円山応挙が描くようなころっころした丸い狗子図ばかりをみてきた人にはびっくりな作品からスタートです。
日本画を始めたときからこういう陰鬱なタイプの作品ばかりを描いていたのだろうか。大学でもずっと?だとしたらそれはそれですごい。こんな絵を自主で書きながら、課題の花や動物の絵をこなしていた学生生活だったのだろうか。


展覧会タイトルになっている《世界中の子と友達になれる》は、今回実物を見るまで、単純に藤の下に女の子とゆりかごがある絵だと思っていたのですが、藤とスズメバチが途中で一体化しててすっごく気持ち悪いことになっています。すごいよ!
そしてスケッチや小下図などもあわせて展示されているのですが、女の子の位置とゆりかごの位置を変えていくことで構図を決めていったことが分かって、これもとても面白い展示でした。女の子がゆりかごを背にしている現状の構図が一番薄ら寒さを感じていい。

腑分け図も実に丁寧な視点で書かれていて、グロテスクだと思う前に、その精密さに美しいと感じる。彼女の描く女性の顔や内蔵なんかは時々レオナルド・ダ・ヴィンチを想起させるものがあると思うんだけど、わたしだけ?
で、そんな丁寧な腑分け図を通して出来上がった数々の作品のうち、一番観たかった《陰刻された四肢の祭壇》(この女性の表情なんかレオナルドの《岩窟の聖母》っぽくない?)と《浄相の持続》、そしてそれに続く九相図風の連作があり、かつまた近年の兎口の女性を描いた作品もありで、本画の作品点数としてはそれほど多くはないけれども、大満足できる展覧会だと思います。
《浄相の持続》に代表されるように人間が朽ちてもその肉体がその他の生命体の栄養となっていく、まるで冬虫夏草のような作品が多い冬子さま(ついこう呼んでしまう)の作品ですが、魂の輪廻っていうだけじゃなくて、肉体がひとつの栄養素としてその他の生命を生かして生命が繋がっていくっていうことをすとんと納得できるのは、仏教の教えを受けているからなのだろうか?と考えてしまう。他の宗教の人はどうとらえるんだろう?

最後の作品が、トンボの羽化を描いた小品で、これがまた良かった。。。


オフィシャルサイト→松井冬子展 世界中の子と友達になれる



因みに平日の午後14時頃の来館でしたが、それほど混んでなくてみやすかったです。何より絹本でこれほど描けるのは、やぱり技術の高さ。絵の主題も面白いけど、それをしっかりと見せられるだけの技量もある作家さんだなと感じました。
また、今回出品の本画、小さい作品はなくてどれも大きい(軸物は別として)。やっぱり若い作家さんも大きい作品を力があるうちに描き貯めるべきですね。


3月に冬子さまディレクションの映像が公開予定だそうなので、もう一度行く予定。