ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

Paris je t'aime

別のとこでも紹介した作品なのですが、フランス関連なので、この「ふらんす*にちようざっか」でもご紹介します。ほんとに久々に見て良かった映画!

Paris, je t'aime 邦題≪パリ、ジュテーム≫
制作 クローディー・オサール&エマニュエル・ベンビイ Claudie Ossard & Emmanuel Benbihy
監督 ブリューノ・ポダリデス(Bruno Podalydès)、グリンダ・チャーダ(Gurinder Chadha)、ガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)、ジョエル&イーサン・コーエン(Joel et Ethan Coen)、ウォルター・サレス&ダニエラ・トマス(Walter Salles&Daniela Thomas)、クリストファー・ドイル(Christopher Doyle)、イザベル・コワゼ(Isabel Coixet)、諏訪敦彦(Nobuhiro Suwa)、シルヴィアン・ショメ(Sylvain Chomet)、アルフォンソ・キュアロン(Alfonso Cuaron)、オリヴィエ・アサイヤス(Olivier Assayas)、オリヴァー・シュミッツ(Oliver Schmitz)、リチャード・ラグラヴネーズ(Richard LaGravenese)、ヴィンチェンゾ・ナタリ(Vincenzo Natali)、ウェス・クレイヴン(Wes Craven)、トム・ティクヴァ(Tom Tykwer)、ジーナ・ローランズ(Gena Rowlands)、アレクサンダー・ペイン(Alexander Payne)
フランス・ドイツ・スイス・リヒテンシュタイン、2005年、70分 ☆☆☆☆☆

普段ファッション誌をまったく読まないわたしにとって、パリはただ美術と文化の町であって、渡仏前にそれほどお洒落という印象もなかったし、短期滞在中やその後長期住んでからも、別にそんな印象は受けなかった*1。初めて一人で渡仏した時に宿泊した場所が、それほど清潔とは言いがたい13区だったせいかもしれない。おしゃれなパリジャン・パリジェンヌは何処にいるんだろうとすら思っていた(実際に住んでみるまではたいして買い物にも出なかったので、おしゃれ地区には足を踏み入れていなかったのです)。
この映画は、お洒落じゃないパリ、生活者のパリを見せてくれる。パリに危険がたくさんあるようには描いてはいないけれど*2、パリ(というかフランス)の抱える移民の問題を恋愛物語として描いたりして、リアルなパリの側面をとてもスマートに描き出す。


描かれているのは、次の18箇所(上映順);
 Montmartre モンマルトル(18区)
 Quais de Seine セーヌ河岸(5区)
 Le Marais ル・マレ(4区)
 Tuileries チュイルリー(1区)
 Loin du 16e 16区から遠く離れて(16区とパリ郊外)
 Porte de Choisy  ポルト・ド・ショワジー(13区)
 Bastille バスティーユ(12区)
 Place des Victoires プラース・デ・ヴィクトワール(2区)
 Tour Eiffel エッフェル塔(7区)
 Parc Monceau モンソー公園(8-17区)
 Quartier des Enfants Rouges カルティエ・デ・ザンファン・ルージュ(3区)
 Place des fêtes プラース・デ・フェット(19区)
 Pigalle ピガール(9区)
 Quartier de la Madeleine カルティエ・ドゥ・ラ・マドレーヌ(8区)
 Père-Lachaise ペール=ラシェーズ墓地(20区)
 Faubourg Saint-Denis フォーブール・サン・ドゥニ(10区)
 Quartier Latin カルティエ・ラタン(6区)
 14e arrondissement 14区


マドレーヌでのファンタジーを描いたナタリの作品と、中華街を描いたドイルの作品はあんまり面白くなかった。ナタリのは映像自体は可愛かったんだけどねぇ。ドイルの描くステレオタイプの中国人にはうんざり。”アイニー”ってもう、しょっぱなから落ちも見え見えだし。コーエン兄弟は、ブシェミの顔の面白さで笑いを取るのはいい加減にやめたほうがいいと思う。
それ以外はそれぞれ見所があってどれも良かった。社会問題を扱った「セーヌ河岸」「16区から遠く離れて」「プラース・デ・フェット」のうち、ハッピーエンドな「セーヌ河岸」以外はめちゃめちゃ切ない。でもすごい現実的な作品。「16区から遠く離れて」の主人公は、自分の赤ん坊の環境と、自分が面倒を見ている上流階級の赤ん坊との差を感じつつ、しかしどうしようもできない。自分の赤ん坊に子守唄を歌う時は笑顔で見つめながら歌っていたのに、仕事で相手をする赤ん坊には笑顔どころか視線を向けない。彼女の目は、郊外の託児所にいる自分の子供のほうに向いている。

不器用だったり微笑ましかったりする恋愛を描いている「モンマルトル」「ル・マレ」「バスティーユ」「カルティエ・デ・ザンファン・ルージュ」「ペール=ラシェーズ墓地」「フォーブール・サン・ドゥニ」「カルティエ・ラタン」の中では、独特の雰囲気漂う「ル・マレ」(ガスパールウリエルがカッコよすぎる!)、めちゃくちゃフランス男っぽい「バスティーユ」、我儘にしてるのに最後の最後に相手の我儘を許してしまう女っぷりがかっこいい「カルティエ・ラタン」が好きかなぁ。ここで脇役出で照るドゥパルデューもいい感じ。
ペール・ラシェーズ墓地はデートスポットでもあるんだけど*3、ここで出てくるワイルドの墓は確かに強烈なインパクト。ちなみに作品中ワイルド役を演じているアレクサンダー・ペインは、最後の「14区」の監督です。
あと、「エッフェル塔」のパントマイマーはPaul Putnerという人。メトロのポスターで見たことがある人だったんだけど、イギリス人だったんですね。同じ作品で奥さん役は、なんと《アメリ》に出ていたヨランド・モロー(Yolande Moreau:管理人マドレーヌ役だった人です)。


一番好きだったエピソードは最後の「14区」。デンヴァーで郵便配達をしている未婚女性が2年間フランス語を勉強して、始めてパリに一人で観光しに来る話なんだけど、ものすごいアメリカ英語訛りのフランス語でナレーションが最初すごく耳障りなのに、だんだん感情がこの女性と同化してきて、すごい泣いちゃった。この作品が、一番あたしにとってのパリを表している気がする。パリに居て感じる嬉しいような悲しいような気持ち・モンパルナスタワーから眺める景色を一人で見る心地よさと、でも誰か居たらもっと楽しいかもしれないと想像する気持ち・サンドイッチを噛みしめながらモンスーリ公園で感じるvivanteって感じているこのアメリカ人女性の気持ちが、ちくちくした。
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パリにいると「あーあたし今、生活してる」「町を歩いてる」なんてそういう日々の営み・基本的な動詞行動を行っている自分をつくづくと感じる瞬間が訪れるものなんだけど、この感覚はやっぱりあたし一人のものではなくて、パリにある種シンクロした人が皆感じることなんだなぁと、この映画を見て改めて思いました。

*1:マレ地区以外は

*2:実際パリはそんなに治安は悪くないと思う。空き巣やスリの噂は聞いたけど実際被害にあったことはないし、終電に女子一人でだって乗れる。

*3:なんでだろう?オリエンテーリング気分を味わえるからかな?