ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

大エルミタージュ美術館展

12月24日まで東京都美術館で開催されている「大エルミタージュ美術館展」を見てきました。レセプションには仕事の都合で行けなかったので(行った友人達が山口智子と写真撮ったのを見せてもらって、こぴっと羨ましかった)、普通の日に。いやはや、混んでた。土曜日の美術館とか、ほんとしんどい…平日休みの人間になりたい。


で、展覧会。ポスターがゴーギャンだったし、すごくポップな色だったから、エルミタージュの中でも近代コレクション(モロゾフコレクション)が中心に来るのかと思っていたんだけど、案外少なかった。ものすごくオーソドックスな展覧会だったと思う。ゴーギャンのポスターを見て「行こうかな」と思った人はがっかりしたんじゃないだろうか。わたしがエルミタージュ美術館に行ったのは今から10年近く前の事で、その時はマティスの《ダンス》が見たくて行ったんだけど、予想外にレオナルドを初めオールドマスターの作品も山のように揃っていた為何倍も楽しめた。でもそれは現地で発見があったから楽しめたんであって、展覧会という場で見る場合、この展示内容でゴーギャンのポスターは拙いのではないだろうか。カタログの表紙に使っていたフランチェスコ・バッサーノ*1(Francesco BASSANO, 1549-1592)とか、ネームバリューでいくならヴェロネーゼ(Bonifazio de' PITATI a.k.a. VERONESE, 1487-1553)かグァルディ(Francesco GUARDI, 1712-1793)あたりを使っておけばよかったのに。あと、展覧会テーマが“都市と自然と人々”だったんだけど、都市と自然と人々以外のものを描いた絵画ってなんじゃい?っていう話な気も…。

1)家族の情景

    15世紀〜19世紀までの“家族”を描いたものを集める。確かに聖家族は“家族”だけど…と、1枚目にして力技な展開を感じさせる。まさにオランダ!なエリンハ(Pieter Janssens ELINGA, 1623-1682)は初めて知った画家ですが、描かれている窓は四角いのに壁に映った光は薔薇窓の形をしていて、とても神秘的。フェルメールが見たくなった。19世紀の絵は甘ったるい砂糖菓子系絵画ばかりなんだけど、ダニャン=ブーヴレ(Pascal-Adolphe-Jean DAGNAN-BOUVERET, 1852-1929)の、《ルーヴル美術館の若い水彩画家》jはちょっと目を引く。画中画のヴァトー作品が上手いことと、手前の水彩画家の甘さに対して裏返されたカンヴァスに描かれた男の肖像画が気持ち悪いせいだろう。途中のドゥニ(Maurice DENIS, 1870-1943)から一気にカラーが変わる。ヴァロットン(Felix VALLOTTON, 1865-1925)の室内画はやはりじーっと見入ってしまう。出展されている《室内》は、自分の木版画作品を壁に配置して鏡で写してみせるなど、なかなかやり手ヴァロットンなところを感じさせる一枚。ローランサン(Marie LAURENCIN, 1883-1956)の《アルテミス》は、ローランサンにしては珍しい表現で目を引く。普段のローランサンは嫌いだけど、これはわりと好き。
2)人と自然の共生
    風景および廃墟を描いた作品を主に集めたセクション。マニャスコ(Alessandro MAGNASCO a.k.a. Il Lissandrino, 1667-1749)の《盗賊たちの休憩》は対作品があるらしく、どうして併せて見せてくれないの…。高いところに引っ掛けてる盗賊たちの武具等が、最初処刑された人間かと思って、ついまじまじと見てしまった。あと、このセクションにあったグアルディの《風景》は、わたしの中でカナレットと同じく海と都市の画家(ヴェネツィアの海)だと思っていたグアルディの認識を新たにするものだった。19世紀のヴァン・デル・ヘキト(Guillaume Van der HECHT, 1817-1891)の《ケニルワース城の廃墟》は、ベックリンの《死の島》に似てる。ドレ(Gustave DORE, 1832-1883)の《山の谷間》は、作品としては個人的にどうでもいいんだけど、ドレってこんな絵も描いてるんだーと視野が広がった一枚。ファンタン=ラトゥール(Henri FANTIN-LATOUR, 1836-1904)の《花瓶の花》は、地味なんだけど見てるとついずっと見入ってしまう絵だった。なんでだろう?あとなんでか見入ってしまったものに、ヴァン・ドンゲン(Kees Van DONGEN, 1877-1968)の《春》(限りなく下書きっぽいのに、構図の大胆さと手前の枝の青さに惹かれてしまう)、ボナール(Pierre BONNARD, 1867-1947)の《汽車と荷船のある風景》(前景の少女が可愛い。彼女が口に入れているのは目の前の葡萄畑から積んできた葡萄だろうか?)、そしてルーセル(Ker-Xavier ROUSSEL, 1867-1944)の《バッカスの勝利》。ルーセルのは、タピか壁画の下書きなのだろうか??
3)都市の肖像
    カナレット(Giovanni Antonio Canal a.k.a. CANALETTO, 1697-1768)がカナレットっぽくないのにまず驚く。水面を走る波の描写がないし、人間をわりとリアルに描いている。初期作品らしい。一方で「おお、これこれ」と思ったのがこのセクションのグアルディ。そして「黒色団」のはずのコッテ(Charles COTTET, 1863-1925)の黄色い絵の、この明るさには驚いた。


東京の後は、名古屋市美術館(2007年1月5日〜3月4日)、京都市美術館(3月14日〜5月13日)に巡回します。(18-11-2006)

*1:ヤコポ・バッサーノの息子。本名フランチェスコ・ダ・ポンテ