ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

ガレとドーム兄弟展

渋谷の東急Bunkamuraで開催されている「エミール・ガレとドーム兄弟」展に行ってきた。フランスのガラス作家たちではあるが、今回はエルミタージュ美術館の所蔵という事で、ちょっと面白いものが見られるだろうかと思っていったのだが…うーん、個人的には12/20点。実は「ガレ見飽きた」という個人的な感想も入っている。個人的にガレよりもドーム兄弟の作品の方が好きなのだけど、圧倒的にガレ色な印象のある展覧会だった。実はわたしは今から8年ほど前にエルミタージュ美術館に行ったことがあるのだけど、その時ガラス器を見た記憶がない。あの広大な邸宅の中のどこかにガラス器コーナーがあったんだろうなぁ。当時はイタリア絵画、ドイツ絵画*1マティスの《ダンス》など絵画作品ばかりが目的だったので、ガラスは飛ばしてしまったのだろうか。

話は戻ってガレとドーム兄弟展。まずは万博出品作など、ヴェネツィアングラスの展示から開始。昔は無色透明なガラスを作れる技術はヴェネツィアムラーノにしかなかった為にヴェネツィアは一大ガラス都市となるわけだが、やがて別の国や都市で透明ガラスが作られるようになり、飛躍的にガラス生産の量が増す。今回展示されていたサルヴィアッティ社のガラス器は、そうした世相の中でも王者たらんとするヴェネツィアの意気込みを感じる繊細で優美な作品だった。
そしてエミール・ガレの登場。今回の目玉展示品のひとつである《フロール・ド・ロレーヌ》が見える。が!テーブル作品なんだから、回りこんで見られるようにしてくれないと全然見えなくて面白くない〜!ステージの上のピアノを眺めているかのよう。会場のパーテーションには布が使われ、壁に窓があるかのように見せかけた形のカーテンを置くほど凝るのであれば、当時のアパルトマンを再現するくらいの気持ちで作品を配置してくれれば良かったのに、と思った。しかもこのテーブル作品、寄木細工でモノトーンカラーなので、いまいち華がない。無理だとは分かっていながらも、このテーブルにガレのランプやフランスから贈られた書物を載せた状態で展示してくれてば尚いいのに、と思ってしまった。その後は、これでもかっつーくらいガレ作品(あるいはガレの工房作品)が津波のように。目玉展示のもう一つ《トケイソウ》の先端がおしゃぶりに見えてしょうがないのは我慢するとして、それにしてもガレって色彩センスが無かったんじゃないか?あったとしてもかなりギリギリなのでは?と思わせるような作品も多々残している。ピンク色の被せガラスの作品なんて特に気持ち悪い色この上ない。友人が「アポ○チョコレートにしか見えない」と言っていたせいもあってか、○ポロチョコレートを溶かして作ったように思えてしまう。当時の絵画技法との関連でガラス工芸を見れば、このねっとりとした質感の被せガラスは大変興味深いものになるのだが、純粋にガラス作品としてだけ見たときに、どうしても欲しいと思えない。使いたいと思わせないのだ。ガレには勿論の事いい作品もいっぱいあって、でもこの苺チョコ色は…要らない。《蜻蛉の足つきテーブル》は好きだったな。蜻蛉の顔が宇宙人っぽくて、ちょっとH.R.ギーガーの世界をも連想させるフォルム。バイオとメタルの融合って、メタル素材の伸縮性が自由になった19世紀以降は常に関心がもたれるものであると思うんだけど、組み合わされるバイオが大抵女なのは、やっぱりフェティッシュからきているんだろうか。
カーヴを抜けるとようやくドーム兄弟の作品登場。Bunkamuraではいつも展覧会内容に合わせてベンチのシートが替えられているような気がしているのだが、今回は緑色の地のベンチに白いレースがかかっていた(シンプルなベンチもあり)。えーっと…何となく、田舎の家の応接間っぽい…。風景描写を特異としたドーム兄弟*2、すっきりとしたフォルムと、そのモノの用途を考えた作品を発表し続け現在に至る。デコレーションという面だけ無く、“使用する”という観点から作られた(ように感じる)ドーム兄弟の作品は、だからこそアール・ヌーヴォーが終結しアール・デコの時代になっても生き続けたのであろう。強引に作品を性別するとすれば、ガレが女でドームが男(女性度高いけど)だと思う。
それにしても展覧会タイトルは「ガレとドーム兄弟」展なのに、なぜに締め作品はティファニーとラリック!?しかもモノが良いのでそちらに最後の意識を集中させてしまう。どんなに“これでもかガレ”な展覧会でも、19世紀の雰囲気満載で終わらせてくれればそれなりにうっとり出来るのに、締めがアール・デコ(しかもガレ作品でもドーム兄弟作品でもない)になっちゃったら中途半端感が否めない。出展作品数が多く(116点だったかな?)集中力も途切れがちなので、もう少しコンパクトにまとめたほうが良かったのではないだろうか。(07-08-2004)

▼お勧め図書▼

アール・ヌーヴォー―フランス世紀末と「装飾芸術」の思想

アール・ヌーヴォー―フランス世紀末と「装飾芸術」の思想

*1:監視員不足を理由に閉室していて見られなかった。っていうかそんな理由!?

*2:ガレ作品における風景ものは、全てガレ本人の死後に工房で制作が始まったとのこと。