ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

DV

DV ドメスティック・バイオレンス スペシャル・エディション [DVD]
《DV ドメスティック・バイオレンス
監督:中原俊
日本、2004年、85分 ☆☆☆☆☆

以前一時帰国した時に映画館の予告上映で見て以来見たいなと思っていた作品なのだけど、公開がフランス帰国後だったので見られなかった作品。父親がレンタル屋に行くと言うので、ついでに借りてきてもらった。
DVを実感したことの無い外から見ている人間なので、以前は「なぜすぐ離婚しないの?」とか思っていたのだけれども、そんなすぐには出来ない背景があるのだということに気づかせてくれる作品だった。“DV相談所に行くまでの葛藤、そして相談所に駆け込んで救われる”なんて陳腐な内容ではなく、もっとリアルに迫る秀作。


作品中には3人のDV被害者が出てくる。主人公である泰子(英由佳*1)、リリィ扮する初老の女、そして相談員・宗方の妻。ぎりぎりまで夫と向き合う、しかし向き合い方の異なる前者2人、向き合えなかった3人目。現実にはもっとヴァリアントがあるのだろうけど、映画作品として収めるには適当な選択だろう。

DV被害を訴える妻に対する世間の反応は、なんだかとてもリアルだった。相談した掲示板の書き込みレスポンス、勝手なことはできないから…と警察への通報を拒むカラオケ屋の店員、夫婦喧嘩だと思い込んで妻を諭し上手く仲介できたと思い込む交番の警官、グーならDVでパーなら夫婦喧嘩だと言い切る女医。この無責任な人々、特に警官と女医の反応には怒りさえ覚えるが、しかしおそらく多くの人がここに属するのだろう。自分だって、本当にそういう人に相談されたら力になれるかどうか分からないのだ。暴力すら愛情だと思えてしまうほどの関係ならば尚更だ。また逆に、自分がDV被害者になったとしたら、あたしはどうするのだろう?とも思う。好きになった相手がDVをしないとは限らないのだから。


余談ながら、うわぁ巧い!と思った最大のシーンは、花束を手にした夫が仕事中の妻に電話をするシーン。仕事中なんだから電話に出られるわけがないと思っていたあたしは、妻は電話に出ないと思ったのだ。もしもここで電話に出なければ、夫が妻に仕事をやめてほしいと思う強力な理由の一つになりえただろう。しかし妻は電話に出る。それでも夫のDVは始まる。これはつまり、DVが始まる時には理由がなんであり始まるのだし、夫の妻への依存心の根の深さを示しているのだろう(鑑賞後にDVDについているおまけを見て、その中で夫役のエンケンがこの場面について同じことを述べていた)。(30-03-2006)

*1:元モデルで、これが映画デビュー作。すらりと細くて本当に美人、しかも被虐心を煽る美しさだと思う。