ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

やさしい嘘

やさしい嘘 デラックス版 [DVD]
Depuis qu'Otar est parti... 邦題《やさしい嘘》
監督:ジュリー・ベルトゥチェリ Julie Bertucelli
フランス・ベルギー、2002年、102分 ☆☆☆☆

旧ソ連の国グルジアで、フランスにいる息子からの電話と手紙を楽しみに待つ母エカ、エカの娘マリーナ、そして更にその娘アダと、3代のグルジア女性を優しく描いた秀作。日本語タイトル『やさしい嘘』は、確かにその通りであるのだか、しかしこの作品の基盤を作っているのは移民問題であり、ただの心温まるヒューマンドラマではないところが素晴らしい。

家族を思ってついた嘘、そしてそれを呑み込める精神力。途中には戸惑いや悲しみが付きまといつつも、それでも生きている人間は次の選択肢を選ばなくてはいけない。エカを演じるのは85歳で初めて映画に出演したというエステール・ゴランタン(素人かと思って見てました)。娘のマリーナにはグルジアの舞台女優であるニノ・ホスマリゼ(ちょっとカトリーヌ・ド・ヌーヴを髣髴とさせる)、そして孫娘はカネフスキー映画であまりにも有名なOumri, Zamri, Vosskresni !(邦題《動くな、死ね、蘇れ!》、1990年)のディナーラ・ドルカーロヴァ。フランス語とロシア語とグルジア語が自然に入り混じる作品だった。


スターリン主義のエカ、何も分からず良いものと信じていたものが革命によって破壊されたマリーナ、そしてエカとマリーナの気持ちを汲みつつも自分の道を模索するアダ。この中で最も不幸といえるのはマリーナかもしれない。信じていたものが実は虚構であり、しかし国を飛び出すだけの力が何も無い。水や電気が止まる祖国に悪態をつきつつもそこから抜け出る事の出来ないマリーナを、娘のアダは越える。彼女には新しい未来が待っているが、しかしそれは叔父のオタールと同じく移民の道だ。やがて彼女は不法滞在の移民となるだろう、オタールと同じように。それでもグルジアを捨てなくては未来の見えない若者の葛藤を、家族の物語と絡めて実に雄弁に語った作品だった。展開に無理がなく、ホームドラマの外見をした社会ドラマだと言えるだろう。オタールについてのエカの嘘は、アダに出発の力を与える。作品に出てくる2つの嘘(マリーナとアダの情況を動かさない為の嘘と、状況を動かすエカの嘘)。どちらも家族を思いやっての嘘であり、それは優しく温かい。正しいとか真実かどうかとかは分からない。ただその嘘を契機に、生きている人間の人生は変化する。嘘でも真実でも、こうして人間は生き続けていくのだと思わせる。

メトロを待つマリーナとアダの場面、エカが観覧車で煙草をふかす場面、エカがオタールの行く末を知る場面、空港での投げキッスの場面。丁寧に取られた映像が美しい。(30-09-2003)