ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

白鳥の湖

ずっと楽しみにしていたバレエ《白鳥の湖》をオペラ・バスティーユで見る。14時にJとFと待ち合わせをして3人で。開演(14時半)ぎりぎりまでカフェに行こうというJを、「入場時の荷物検査とか席探しとかに時間がかかるから」と説得してお茶せずに会場入り。案の定時間がかかり(その理由はエレベーターの混雑だったんだけど)、カフェしなくて良かったねーという結果に。あたしたちは10ユーロの最上階右サイドのギャルリー席。あたしはこの会場は、今年の7月14日(革命記念日)の無料バレエの時にしか来た事がなかったんだけど、その時は正面1階席だったので凄く良く見えて当たり前だった。今回はサイド席だからどうだろう?と不安だったんだけど十分見えた。と同時に如何にガルニエの席が見えないかが判明。会場としての雰囲気はガルニエのほうが好きだけど、やっぱり鑑賞に適しているのはバスティーユだなと思う。


この日は、配役表をチェックせずに、単に友達と都合が合うからと選んだ日。誰が出るのかなと思って前日にパリ・オペラ座のサイトでチェックしたところ、あたしの好きなダンスーズMarie-Agnes Gillotだったので「変わらないで〜!」と念じながら行ったんだけど、変更無し、ジヨが踊りました☆嬉しい〜!
ジヨの魅力は長い手足。彼女のしなやかに動く両腕はまさに本物の白鳥の首の動きを思わせて、それだけでもう泣きそうになってしまった。言わずもがなこの舞台はたくさんの“白鳥”たちが踊るのだけど、ジヨが出てきて踊ると、やっぱり他の人たちとは何か違う。これがエトワールというものなのかしら。あと色んな舞台を見ていて思うんだけど、おぉっ?と惹き込む人は、パ*1の音があんまりしないと思う。上手くなればなるほどパの音は消えるんだろうか?以前パリ・オペラ座はコール・ド・バレエが揃わないところが欠点だと思うと書いたことがあるけど、《白鳥の湖》はコール・ド・バレエが見せ所のひとつでもあるのでそれを意識しているのか、他の舞台に比べて比較的揃っていたと思う。でもやっぱり、手首の返しひとつでももっと揃えばより美しいのになーと思いつつ、それじゃ某国のマスゲームじゃん!とも。いやでもやっぱり揃ってこその美ってあると思うんだけどな。第2幕の4人ずつ踊るところ、特に小さい白鳥の方は、素晴らしく息がぴったりで圧巻だった。ここだけでも10ユーロの価値あり、大袈裟じゃなく。


Le Lac des cygnes 白鳥の湖
振付:ルドルフ・ヌレエフ
音楽:P.I.チャイコフスキーパリ・オペラ座楽団演奏(ヴェロ・パーン指揮)
パリ・オペラ座のレパートリー入り:1984年

オデット/オディール:Marie-Anges Gillot マリ=アニエス・ジヨ
ジークフリート:Herve Moreau エヴェ・モロー
ヴォルフガング/ロットバルト:Karl Paquette

Act1. pas de trois : Fanny Fiat, Dorothee Gilbert, Emmanuel Thibault
Act2. quatre petits cygnes : Fanny Fiat, Myriam Ould-Braham, Juliane Mathis, Celine Palacio
quatre grands cygnes : Nathalie Aubin, Marie-Solene Boulet, Laura Hecquet, Vanessa Legassy
Act3. czardas : Fanny Fiat, Bruno Bouche etc.
danse espagnole : Muriel Halle, Nathalie Aubin, Julien Meyzindi, Florian Magnenet
danse napolitaine : Myriam Ould-Braham, Emmanuel Thibault etc.


あれれ、悪魔役の人、7月14日のバレエでいまいちだったロメオ役の人だわ。この人ダンス・ノーブルに向かない人なのかしら。ロメオの時は?と思ったけど、今回ははまっていたと思う。王子役のモローもすごくはまってたんだけど、まぁ顔が王子っぽい人だからね(あたしの好みじゃないのでどうでもいい)。Joyauxの3幕目でプリンシパルを取ったフロリアン・マニュネはやっぱり目を引く踊りをする人だなぁと思った。

ジヨがオディール役の時(第3幕)にタン・フェッテ*2がちょっとぐらついて、次にモローのソロになった時舞台の右脇でぜいぜい呼吸しているのを見て、バレエという身体芸術の華麗でありかつ過酷である面を見た気分。他にも、上半身は腕をアロンジェにして優雅極まりないのに対して足はポワント*3のまま進んだり後退したり。“白鳥って水面から見える部分は優雅だけど水面下では必死に漕いでる”という言い回しを思い出してしまった。《白鳥の湖》という舞台がこれほど人気があるのは、もしかしたら“白鳥”がバレエそのものを体現しているからなのではないだろうか。上半身の優雅さに対してここまでパを詰め込みダンサーの身体能力の限界を試すかのようなこの舞台、もはや優雅な気分では見ていられなくなる。だけどこちらの心配を覆すように軽々と(見えるように)素晴らしい技巧を披露して行くダンサーたち。ダンサーの凄さ、その練習量や集中力その他を想像するだけで泣きそうになってしまった。究極的な身体技巧は、間違いなくアートであり美である。

さて、大好きなル・リッシュを目当てに1月にもう一回行くか、お財布と相談!あーでもこれで配役変更になったらショックだ。

*1:pas : 歩の意=ステップのこと

*2:temps fouette : 一回転ごとに両足のア・テールにおりてピルエットを連続しておこなうパ。

*3:pointe : 爪先立ち