ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

ソフィ・カル展2004

Sophie Calle: Did You See Me?Sophie CALLE, 「M'as-tu vue」
@Centre Pompidou, 19/11/2003 - 15/03/2004

展覧会タイトルは、「わたしを見た(?)」。疑問形の構文なんだけど?マークがないのは、デザイン上の理由なのか、あるいはわたしの知らないフランス語文法に則っていて疑問形じゃないのか。フランス語文法をきちんとやっていないと、こういう細かいニュアンスが分かんないんですよね…(誰か教えて!)*1

さて、数年前に日本でも開催されたソフィ・カル展ですが、今回のポンピドーでの展覧会は現在までの新作を加えてよりカルの世界が明確化されていたと思います。1979年に友人や見知らぬ人を家に招いて自分のベッドに寝かせ、その様子を記録した写真作品 Les Dormeurs (眠る人々)から彼女の作家活動は始まるのですが、それ以後彼女の活動は止むことなく現在まで続いています。
彼女の作品は私生活と切っても切り離せないわけですが、けれども必ずしも全てがノンフィクションとは言えないと思っています。例えばDouleur Exquise, Avant la douleur*2 (痛みまでの92日)シリーズで示された物の中のひとつに日本の御神籤があるのですが、これがまた珍しいことに大凶なのです。大凶って普通出なくないですか?可能性としては�本当に偶然大凶だった、�大凶が出るまで引いた、�神社の人に頼んで大凶を出してもらった、の3つがあると思うのですが、�と�だったらかなり作為的だということになります。もちろんこの作為性は作品を作るためのものなので御神籤の性質とは何ら関係がなく問題ないのですが、例えばこういうところに彼女の作品の面白さがあるのではないかと思います。つまり、「本当か嘘か分からない」、「現実と非現実の境界が見えない(何処までが真実で何処からが虚構なのかが鑑賞者に見えない)」、にも関わらず真実性を持って鑑賞者の心に迫るものを持っている。真実は事実の中だけにあるのではないということを感じさせる作品を作る人だなぁと思います。というか虚構の中に真実を織り込むということこそ、そもそもの芸術の始まりであるとも言えるのではないか、と思うと、彼女はまさしく芸術家なのかもしれない。

彼女の作品には感情が溢れていて、その感情は誰もが知っている感情。だからこそ彼女の作品が虚構だろうと真実だろうと、わたしたちはその感情を自己のものに置き換えて享受するのです。この感情こそが、カルが作品にこめる真実。鑑賞者が自己に置き換えられる感情、一般的で普遍的な感情を、カルはヴィジュアル化して示します。
目に見えないものを目に見える形で示された時、鑑賞者はそれを自己の感情として受け止め個人的にその感情に流されるのです。流され方は、その作品を見た時の気分や体調にもよるし、また誰と見ているか、一人で見ているかといった状況にもよります。特に彼女の代表作のひとつであるDouleur Exquise(限局性激痛)の表わす「痛み」の感情は、鑑賞時の鑑賞者の状態で大きくその作用を変えるでしょう。価値の移ろいやすい現代美術作品が跋扈する中で、カルの作品が世界的に恒常的に人気であるのは、普遍の感情を扱っているからであり、見る度に違う様相を示す面白さを持っているからだと思います。その違う様相を鑑賞者の心に立ち上らせる原因はカルの作品の外観にあるのではなく、鑑賞者の心にあるのだという事を考えると、カルの示す芸術作品の在り方はある普遍性を帯びることになり、つまりは時代や場所を越えてその価値を知らしめることのできる力を持っているということになりうるのです。ただしそれが「美」であるかどうかはまた別の問題ですが。(01-03-2004)

今展覧会のプランは以下の通り
1. Douleur Exquise, Avant la douleur
2. Douleur Exquise, Le lieu de la douleur
3. Douleur Exquise, Après la douleur
4. Voyage en Californie
5. Les Dormeurs
6. Chambre à coucher
7. Les Aveugles
8. La Couleur aveugle
9. Last Seen
10. Unfinished (film)
11. Unfinished
12. Vingt ans après, Une Jeune femme disparait

*1:amazonリンクに展覧会図録の英語版を貼りましたが、英語だと?マークがついてますね。

*2:Douleur Exquise は、直訳すると「甘美な(心地良い)痛み」となるのですが、医学用語では「限局性激痛」となるそうです。なんか意味が全然逆なんじゃないかと思うのですが(だって「限局性激痛」って凄く痛そう)、そういうことらしいです。