ふらんす*にちようざっかblog

美術とフランスにまつわる雑話。でも最近は子育てネタばかり。

垣根を越える

パリの主な国立美術館はルーヴル、オルセー、ポンピドーの3つで、これらは収蔵作品の時間軸でその役割を決められています。つまり(多少の前後はあるものの)18世紀までの美術がルーヴル、19世紀のはオルセー、20世紀以降のはポンピドーが受け持っているのです。ところが11月からその時系境界を侵犯するアート作品がルーヴルとオルセーに現れ話題になりました。

それは、イタリア人アーティストである Maurizio CATTELAN マウリツィオ・カッテランによるインスタレーション《無題 2003》。太鼓をたたく少年が、地上数メートルの高さのコーニッシュに腰掛けひたすら同じリズムの太鼓をたたきます。この少年は人形なのですが、わたしも初めて見たときは本当にびっくりしましたー。一緒に居たK氏は「えー人形でしょ?」ってはなから相手にしてなかったけど、だってほんとに子供だと思ったんだもん(怒)。わたしが見たときはこのインスタレーションを始めてすぐの時期だったようで、ルーヴル見学客の通報で来た警察官とかも居ました。「あの子の親はどこ!?」とヒステリックに叫ぶ女性とかも居て、かなりセンセーショナルなインスタレーションでした。

さて、一般人にとってセンセーショナルだったのは、この人間のように見える子供人形がコーニッシュに腰掛けて叩いていたということであり、例えば地面に足が着くベンチでトントン叩いていたらこんな反響は無かったように思います。
しかしこのインスタレーションがセンセーショナルである本当のところは、古代・近代美術を扱うルーヴルとオルセー両美術館でこの21世紀の作品が展示されたという点なのです。「各美術館は年代別に別れているのであり、その時系列を犯しルーヴルが現代美術を内包する必要などない」「現代美術はボーブール(ポンピドーがある場所)に任せればよいのだ」と La Tribune de l'Art は述べますが、その言葉の裏には、必要以上にルーヴルを権威化し、同時に現代美術を軽視する姿勢が見られるような気がしました。しかし一方ルーヴルの学芸員であるBernadac女史は、「古代も現代も、美術は全て同じである」として、ルーヴルが現代美術を取り込んだこのインスタレーションをする意義を述べます。女史の「全ての美術作品は、出来た時点では“現代”美術であり、現代の生活や出来事との関係を持ってみるべきだ」という言葉はまさにNew Art Historyを勉強してきたわたしたちの年代の考え方であり、美術そのものを総括してみようとするその姿勢には賛同するところが多くありました(ただその結果展示されるのがこれ?という気はしますが・・・)。

少年はルーヴル宮のピラミッドに面して座り太鼓を叩いています。そして建物が石で出来ているのでブリキの太鼓の音がものすごく反響します。通り過ぎる分にはいいけど、例えばピラミッドにて入場待ちを2時間とかしてる間ずっと聞かされてたらきついだろうなー。2月10日(オルセーは1月23日)までにこの両美術館を訪れる予定の方は、耳栓が必要かも。ちなみに警備員の台詞「一日中煩くてかなわないよ。リズムも変わりゃしねぇ!」。ご愁傷様です。